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無職だけどちょっくら異世界で稼いでくる  作者: 折坂勇生
第一巻 1話 まずはレッツゴー、チュートリアルっス!
4/62

4・あはは、ちきゅー人さんは、必ずそれやりますよねぇ

 異世界。

 一言で言えば大自然。そういう場所が冒険の始まりなのだろうか、人が作り出した建造物らしきものは一切見えなかった。

 心なしか、空気がおいしかった。

 後ろを振り向いてみたら、俺たちが出てきたはずの建物がなかった。長方形の黒い空間があるだけだ。それもスッと消えてしまった。


「心配いらずとも、帰ろうとしたら帰れますよ。イブキさんは別にトラックにはねられて、転生してきたわけじゃないんだから」

「そんなベタな方法で連れてこられた奴がいるのか?」

「さすがに死者をここに連れてきても死者のままですねぇ。最初のころは、トラックかなんかでエムストラーンへ飛ばしてたけど、タイミングが難しいの、それ専用のトラックを雇うのが高いの、やってくれる人材も少ないの、効率悪いのなんのって。試行錯誤のゆえに今の形に落ち着いたっス」


 つまり、トラックで飛ばされた奴がいたということか。


「トラックで飛ばされた不運な奴は今、どうしてる?」

「そんなことよりも、あそこの岩の上にある剣を抜くっス」


 絶望的な運命となったのか、言いたくないようだ。


「答えろ」

「いやぁ、すまんっス。わたしも知らないんですよ。初めの頃にやってきた人は、レベル50ぐらいになって、ガッポガッポ稼いでるんじゃないですかねぇ。ちきゅー世界ではきっと、大金持ちのセレブエンジョイ中っス」


 あははははっ、とセーラは笑った。


「それよりも……」

「分かった分かった」


 俺は500メートルほどの距離にある岩場まで歩こうとする。


「ん?」


 体が軽かった。

 重力がないんじゃないかと、というほどだ。

 ためしにパンチをしてみる。

 肉眼で見えないほど素早いパンチだ。軽すぎて、体のほうが追いつかない。

 キックも同じく。

 しかも、俺のパンチとキックで風を起こしていて、百メートル近くまで草原が震えている。

 格闘技をやれば世界チャンピオンだろうと秒殺KOできるし、最悪、対戦相手を殺しかねない威力があった。


「これがレベル99の力っス」


 セーラは自慢げにする。

 たしかにレベル99の力は凄まじい。


「ユリーシャさまのご加護による一時的な潜在能力の引き上げだから、効果は一日だけとなるっス。それに……あー、これは直ぐに分かるから、後で説明するっス」

「ユリーシャ?」

「こっち見てみるッス」


 セーラが指さす方向に目をやると、遙か遠くの方に、天空まで高々と続いている一本の塔のような長細い山が見えた。

 てっぺんの所になにか光っているものが見えたが、空が眩しくて、目を細めてしまう。

 

「空が明るいと分かりにくいですねぇ。夜になれば、ユリーシャさまの光が良く見えるから、暗い時間に来たときは見てみるといいです。あれがユリーシャさまと言うんですよ。ちきゅー人さんの言うところの、神様とか女神様ってやつっスか? そんな、偉くて偉くて偉ーいお方なんです。ありがたや、ありがたや……」


 その方向に、南無南無と拝んでいた。


「つまり、あの光があるから、俺たちは地球での体力の限界を超えて、強くなれるということなんだな」

「そうっス、そうっス」

「レベル1に戻ったら、どうなるんだ?」

「ちきゅーと同じ体力っス。レベルアップしたら、ちょいちょい能力が上がっていくですよ。そういう楽しみもRPGならではじゃないっスか」

「意地悪だな。最初から強くしてくれたらいいのに」

「それができりゃ、こっちも苦労しませんわ」


 できない事情があるらしい。


「兎角、スロットパワーでイブキさんは最強キャラだから、バイラスビースト――ちきゅー人さんでいうモンスターのことっス――を倒して一攫千金を狙いましょう」

「なあ、スロットって最初は高確率で当たるようになっているんじゃないか?」

「あは、あははははは、な、なに言ってるんスか、疑い深いっすねぇ、そんなわけないじゃないっスか」


 セーラは嘘をつくのが苦手らしい。分かりやすいほど目が泳いでいた。


 剣がささっている岩場の近くに来る。


「よっと!」


 ジャンプする。

 1メートル50センチほどある岩を手を付けることなく軽々とあがった。

 異世界の草原をよく見渡せる。地球上では見たことのない生物たちがいる。

 岩場の下。左側の所にサイを3倍に膨らませたような生き物が2匹倒れていた。お腹の部分が動いているので、岩を日陰にして眠っているのだろう。

 向こうには大きな湖があり、その付近に、ブラキオサウルスのような長い首をした巨大な生物が歩いていた。


「すごいな」


 俺は思わずケータイを取り出して、カメラモードにする。

 まずはサイ的な生き物を撮ろうとしたけど、液晶内にある撮影ボタンを押すも、カシャというシャッター音はならなかった。

 撮影もできない。

 いくら押しても、画面保存が出なかった。

 そのかわり『ライナウス レベル5』と表示されて、青いマークが付いている。


「あはは、ちきゅー人さんは、必ずそれやりますよねぇ。笑えるぐらいお決まりっス。写真は撮れません。ケータイの機能も、エムストラーン専用にカスタマイズしてあります。この世界にある物は、なに一つとしてお持ち帰りできないので、ご了承くださいっス」


 エムストラーンがあるという証拠を、地球上では晒せない、ということのようだ。


「ライナウス、レベル5は、あの生き物のステータスか?」

「そうっス、そうっス。ちきゅーの撮影のやりかたでカシャってやれば、バイラスビーストかどうか確認できるから便利っス」

「青いマークは?」

「敵じゃないってことっス。ライナウスは、エムストラーンの原獣。ちきゅーさでいう動物っス。触っても害はないけど、襲えばとーぜんながら身を守るために攻撃してきますよ。原獣つかいの職業さんなら、味方にして一緒に戦うこともできます。でもライナウスは弱いし、一日14時間も眠っている怠け者だから、役に立ちませんねぇ」

「あの首の長い奴は?」


 湖にいる巨大を生物に標準を合わせようとする。

 だが、液晶に映っている生き物はアリほどに小さくて、ボタンを押してもステータスが表示されなかった。


「ズームできるっス」


 ケータイにはなかった機能だ。

 液晶画面にあるズームバーを動かしてみる。

 一眼レフカメラほどの性能はなかったけど、全身に入りきるぐらいには大きくなった。

 映画ジュラシックパークでみたブラキオサウルスに似ているが、巨大な目がひとつしかついてなく、長い舌をだらんと下げている。良く見れば、古生物学者のサム・ニームのように感動することのない気味の悪い生物だ。

 ボタンを押すとちゃんと認識した。

 『ゾーナス レベル65』と凄い数値が出てきた。

 マークは灰色だ。


「この色は?」

「同じく、敵じゃない。灰色なのは、食べれないからです。ゾーナスに毒はないけど、まずいし、カチッカチの肉だからねぇ。ちきゅー人さんの歯が折れちゃうっス」

「つまり青は……」

「おいしく食べられるっス」


 ナビも食事をするのか、じゅるりとした。


「だからと、無駄にやっつけちゃダメですよ。青の原獣はどんな強くても経験値はあがらないし、賞金もゲットできないし、場合によってはペナルティが起こるっス。倒してほしいのは、赤いマークが付いた奴。それがバイラスビーストという、エムストラーンを破壊しようとする恐ろしい化け物なんですよ。そいつの所に案内するから、暢気に観察せず、早く剣を取って下さい」

「分かった」


 突き刺さった剣の前にくる。

 試しにと引っぱってみたら、スパッと抜けた。

 一メートル近くはあるロングソード。

 重さを感じることがなかった。

 俺は、マジマジとその剣を眺める。

 刃こぼれ一切していない、新品同様のピカピカな剣だ。

 鏡のように俺の顔を映している。


「おい」

「なんですか?」

「こいつは誰だ?」

「誰のことっス?」


 セーラはきょろきょろとする。


「うちらだけで、誰もいないっス」

「こいつのことだ」


 剣に映っている男を指さした。


「はぁ、イブキさんっス」

「俺の顔じゃねぇぞ! 誰だこいつは!」


 まったくの別人になっていた。


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