3・イブキさんはロリコン確定っス
「わたし、寝てたんだけど?」
俺一人ではなかった。
冒険の衣装に変更した頃、自身の背丈ぐらいはありそうな長い杖を持った少女がロビーに入ってくる。
アイリスだ。
「この部屋、つまんない」
ロビーを見回して、誰に言うわけもなく呟いた。
「ふわぁ」
眠気が強いようで、大きなあくびをする。
「ルルに起こされて、非常に不快」
ルルが、アイリスの耳元にくる。ごめん、とか謝ったのだろう。
「悪いのはルルじゃない。こいつ」
杖の先を俺に向ける。
「また、なにかしたわけ?」
「別に。シャアナだった奴の葬儀に出て、落ち込んでいるだけだ」
「そう、それは……」
なんと言ったらいいのか分からなくなっていた。
「あなたには、色々と文句いいたいけど、別にいい」
「文句は俺だってあるさ。だが、アイリスは俺のことを助けてもらった。お互い、チャラにしようぜ」
「そう……ね……。はぁ、あの怪物からあなたを助けるために、苦労して集めてきた素材を、どんだけ無駄にしたか……。こいつといると、ろくな目に合わない」
それでも、納得いかない様子だ。うつむいて、ブツブツと言ってる。
「文句を聞くだけでいいなら、いくらでも聞いてやる。なんで、こいつが?」
俺も、アイリスをこいつ呼ばわりをして、セーラに聞いた。
「ヴェーダの巨像に行くなら、アイリスさんも連れて行って欲しいとルルさんが頼んだんですよ」
「俺の許可なしでか」
「うちの許可のほうが強いんです」
えっへんと、口をへの字にして偉そうにする。
「ヴェーダの巨像? あそこ行けるの?」
アイリスも知らなかったようだ。行ってみたかった場所なのだろう。眠気が一気に覚めていた。
「ナビが許可すれば行けるっス。アイリスさんは、ルルさんから信頼されているので問題ないっスよ」
「おまえ、俺のこと信頼してたんだな」
「横やりいれるなっス。バカだとは思ってますからご安心を」
セーラがジト目で睨んだ。
「アイリスさんも来ますよね?」
「うん」
即答だった。
「明日早いけど、別にいい。サボるのいつものことだし。どーせ……私なんか……だし……」
起きたら仕事が待っているのか、それを思い出して、憂鬱そうにする。
「寝てたってことは、地球にいたんだろ? そんな直ぐに、呼べるのか?」
「うちの庭に異世界転送機があるの。電波が私の部屋まで届いているから、なにかあれば直ぐに連絡くる。来たのは、今日が初めて」
「家にいてもナビからの連絡があるなんて、うっとうしいだろ」
「なにおーっ!」
「辛いときは、ルルがいつも慰めてくれるから。どんなときも、ずっといてほしいぐらい」
小さく笑みを浮かべて、ルルの頭を指で撫でる。
「ヴェーダの巨像にいくには、条件を守ってほしいっス。ユリーシャの光が届かないので、大きな力を発揮することができないです」
「レベル1になるんだな?」
「姿が元通りになったりは?」
俺とアイリスは同時に聞いた。
「ええーと、レベルは、スロット効果が消えるぐらいっスね。姿も今と変わらないです」
俺に正体を見せたくないのもあってか、アイリスは胸をなで下ろす。
「アイリスさんに、守って欲しいことが一点あります。魔法は一切厳禁なので、絶対に使わないでください」
「ユリーシャの光が届かないなら、魔法が使えなくなるんじゃないのか?」
その疑問はアイリスも感じたようだ。
「それが使えるんですよ。ヴェーダの巨像は、魔法力が混沌としている場所なんです。なので魔法を唱えると、別の力が作動する恐れがあるんです。たとえば、回復魔法を使っても、ユリーシャの光がないから制御をすることができなくて、ウロボロスの結界を破るほどの強烈な攻撃魔法になるかもしれない。そうなれば、エムストラーンの最後となります」
「だから、信頼できる人しかいかせないんだな」
「そうです。だからと、覚悟して行くような場所ではないですよ。ヴェーダの巨像はうちら妖精が暮らしているだけあって、これ以上にないほど安全な場所です」
「言いつけを守ってさえいえば、だろ?」
「そうっス、そうっス。うちが言ったのは、スロットでレベル99になるぐらいに、大げさなことですから。それでも、万一のことがあるんで、魔法は使わないでください」
「分かった」
アイリスは素直に頷いた。
「それと装備品ですね。持ち込み禁止なので、なにも身に付けないでください」
「生まれたままになって行くのか?」
「え? やだ、そんなの!」
まだ裸になってないのに、アイリスは身体を隠そうとする。
「別に、いいだろ。俺は別としても、アイリスは地球とは同じじゃないんだろ。素っ裸なようで、服を着ているようなものじゃないか。恥ずかしがることもない」
「そ、そうでも……晒すのは同じだし……」
「本当のアイリスは、こんなに美少女なわけがない」
「………」
「だろ?」
「……これは、私の理想だもの」
「年も違うんだろうな」
「ええ」
「若すぎるものな」
「…………」
当然だが14歳ぐらいの美少女ではない。無言になったのは、もっと年上だと認めたということだ。
「野暮なことは聞かないけど、俺より年上って可能性もあるな」
「かもね。私、どんな女に思えるの?」
女であるかも疑わしかったが、そういうことにしておこう。
「年は三十歳以上。仕事はなんだろうな?」
「一応、行くべき場所はある」
「おまえの性格じゃあ、接客は無理だな。工場でパートをしていて、菓子とか弁当とか作っている。婚期を逃して、将来の当てはなく、絶望的な状況をエムストラーンに入り浸って現実逃避してるってところか。ここは金が入るぶん、パチンコなどに依存するよりはマシだろう」
「素晴らしい推理」
感情もなくアイリスは言った。
「彼氏いないんだろ」
「そうね」
「安心しろ。俺が付き合ってきた女は全員年上だ。地球で会ったら、俺の女にしてやろう。孕ますまで女の喜びを教えてやるぜ」
「あなたと会うのが、楽しみだわ」
珍しく笑みを浮かべた。ウケたというよりも、軽蔑の笑いかもしれない。
「それで、素っ裸になればいいんだな」
俺はベストを脱いで、シャツに手をかける。
「いやいやいや、妖精たちにサービスしたいなら、脱いでも良いけど、イブキさんはロングソードをここに置くだけでいいっスよ」
「先に言え」
脱ぎ損だった。
「イブキさんが早とちりしたんじゃないですか……」
「私は?」
ホッとしたアイリスは聞いた。
「杖とマントを置いて下さい。あと帽子も取ったほうがいいですね。上からも下からも強い風が来るので、飛んでいっちゃいます」
アイリスも従う。
マントを脱いでも、長い袖にハンドウォーマー、白のニーハイソックスなので、肌の露出は少なかった。
「見ないで」
ツバの大きな三角帽子は、誰かの視線を塞ぐのに役立っていたようだ。ゴスロリ風の服を着ていても、裸を晒したように、恥ずかしそうにする。
「可愛いぜ」
「ロリコン」
「地球でも同じ姿なら、俺はロリコンだと認めよう」
「地球でも同じ姿のセーラちゃんにも可愛い、可愛い、言ってますので、イブキさんはロリコン確定っス」
「おまえは地球に来れないだろ」
「15センチの美少女じゃなけれは、うちの貞操は危ない危ない。アイリスさん、このケダモノには気をつけて下さい」
セーラは、左側にいるルルとは反対側のアイリスの肩に腰掛けた。
「うん。ロリコンは危険」
「やーいやーい、ロリコーン! ロリコーン!」
「ロリコン、ロリコン」
「結託するな」
とはいえ。
こいつらといると、気が晴れてきたのも確かだ。
アイリスに、エムストラーンに入り浸って現実逃避してると言ったが、それは俺に言えることだ。俺にとってエムストラーンは地球よりも居心地の良い場所になろうとしている。




