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3・ふっふーん。あたしたちはそれだけ最強ってことね


「いくぞ?」

「オッケー」


 シャアナは、威勢の良い返事をする。セーラは、遠くで祈るように見守っている。

 俺は、サラダルスが潜んでいる砂地獄に、レベル3のネズミのような小さな原獣を投げ入れた。

 すり鉢状に傾斜した砂から這い上がろうと、細長いしっぽを振って必死に藻掻いていくも、前進せずにズルズルと後ろへと下がっていく。

 サラダルスの顔が動いた。引っかかった獲物をいただくべく、口を開いて、大きく吸い込んでいった。

 口の幅だけで10メートル近くはある大きさだ。


「メテオストライク!」


 原獣を食おうとする瞬間に、シャアナは20センチはある炎のボールをシュートする。

 獲物と一緒に中に入っていった。顔が真っ二つに裂けたかのようなサラダルスの長い口が閉じていき、飲み込もうとした瞬間にボールが爆発をする。


「よっしゃあっ!」


 シャアナは片腕を大きく振って、ガッツポーズを取る。


「まだだ!」


 やっつけてはいない。

 悲鳴も痛がる素振りもない。

 静かだ。恐ろしくなるぐらいに。

 サラダルスの真っ赤な双眼がこちらを向いていた。奴にとっては軽く舌を火傷した程度のダメージでしかなく、俺たちの存在に気付かせただけだ。


「承知の上! メテオストライク!」


 砂の上には何十もの炎球が待機している。

 シャアナは、そのうちの三発をキックして飛ばした。

 サラダルスはのそのそと動いて、砂の下に隠れようとする。背中にぶつかった瞬間に、炎球が弾けて、全方向に破裂した。

 痛がることなく、そのまま姿を消えてしまう。


「ちっ、あたしたちに恐れをなして逃げやがったわね!」


 そうとは思えない。ゼロではないだろうが、大したダメージを与えられなかった。


「穴のなかにメテオシュートしてやる!」

「ダメだ」

「なぜよっ!」

「魔法力を温存しておけ。イザというときどうしようもなくなる。思った以上のタフな奴だ。長期戦を覚悟したほうがいい」

「奴が穴から、出てくるのを待ってろってこと?」

「いや、違う」

「え?」


 音を立てるなとジェスチャーで伝えて、耳を澄ます。

 風が吹き付ける音の他に、地面の下からかすかに震えるような音がする。

 思った通りだ。

 チュートリアルの時の登場時と変わりない。奴は砂漠の土を掘って、下から襲ってこようとしている。

 指を下に向けると、シャアナは理解した。

 こくんと、頷いた。

 両手を空高く上げると、地面にあった炎球がゆっくりと5メートル近くまで浮かんでいった。単に格好付けていただけで、別に蹴って相手を激突させる技ではないようだ。

 砂の地面がガクンと揺れて、足場が失った。


 ぶおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!


 強烈な音と共に、真下からサラダルスのぱっくりと開いた口が迫ってきた。歯はなかった。喉の所には、真っ黒な目らしきなにかが見えた。あれがなんなのか気になったが、確認をする余裕はない。その前に食われてしまう。

 俺は素早く動いて、サラダルスの口顎に足を付ける。小さな子がぴょんぴょん飛び跳ねて遊ぶエアマットのような柔らかさで、足が沈んで上手く飛べなかった。

 頭から着地をした俺は、砂漠の土を何回転かして、急いで起き上がった。


「シャアナ!」

「オッケーっ! さあ、いっぱい食べちゃって!」


 シャアナはジャーン!とピアノの鍵盤を盛大に鳴らすように手を下ろした。

 上空にある炎球が、次々とサラダルスの口に入っていく。


 ばぁぁーーん! ばぁぁーーん! ばぁぁぁーーん! 


 腹の中で爆発するたびに、サラダルスの体が膨れあがっていく。

 だが、体が裂けることはない。


「くらえっ!」


 俺はロングソードで腹の部分を突き刺した。

 

「ちぃっ!」

 

 無理だった。サラダルスの皮膚は柔らかすぎて、コンドームを装着するかのような感じとなり、それが尖ったものだとしても中を突き通せない。

 チート状態の時は一発で決まったので気付かなかったが、ぶよんぶよんな体をしている。

 俺は直ぐにバックをし、サラダルスから離れていった。


「ふん。確かに、一筋縄ではいかないわね」


 サラダルスは体勢を整えて、俺たちの方へと顔を向けた。

 口を開けた。俺たちの背よりも大きい。

 やはり、奥に、なにか顔らしきものが見える。

 あれはなんなのか。


「来るっ!」


 短い四本の足をばたつかせて、突進してきた。


「逃げろっ!」

「無理っ! あいつのほうが足が速い!」


 砂漠では走りにくい。奴の方が有利だった。

 後ろを見ずとも、近づいてくる影によって、追いつかれるのは分かった。


「イブキ。私の背中に捕まって!」


 言う通りにした。


「しっかりと抱きついていてよね!」


 ギュッと、シャアナの首に手を回した。

 こんな時でも、女の子のよい香りがした。


「フレアーダルト!」


 初めて聞く魔法を唱えた。砂漠の地面が爆発した。

 俺たちは爆風を推進力にして、10メートル近く高く飛んでいった。

 真下にはサラダルスがいる。良く目が見えないのかもしれない。俺たちが上にいるのに気付いていなかった。

 俺はシャアナに抱きついていた手を離した。

 落下する。


「食らえぇぇーーっ!」


 ロングソードを両手で構えて、サラダルスの背中を突き刺した。

 今度は、柔らかな皮を破くことができた。体重を掛けて、肉を貫通して、内蔵部へと到達させる。


 びゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!


 サラダルスは、体を激しく揺らして、俺のことを振り下ろそうとする。

 俺は落とされないよう、ロングソードをしっかりと握りしめる。


「フレイムドゥーエっ!」


 着地をしたシャアナが、サラダルスに向かって魔法を唱える。

 内部に与えたダメージによって体が弱まったようだ。効いていた。炎の攻撃にサラダルスの動きが鈍くなる。


「フレイムドゥーエっ!」


 さらにもう一発。火力はさっきよりも大きかった。俺に当たらないよう気を使ってはいるが、火の粉が舞っていて、服が燃えそうになる。

 俺はロングソードを抜いた。どす黒い血が吹き出した。

 傷を与えた箇所をもう一度、深々と突き刺した。


 びゃぁぁぁーーーーー…………。


 サラダルスは空に向かって大きな悲鳴を上げる。その叫びも少しずつ弱まっていき、完全に声が止まると、石のように固まった。

 ゆっくりと倒れていった。

 俺は剣を抜いて、サラダルスから離れていった。


「やっつけたのかしら?」

「みたいだな」


 剣を鞘に収めた。念のため握りを掴んだままにする。

 サラダルスはぴくりともしない。


「イブキ、やったわね、いえーい!」


 シャアナはピースを作った。


「なんか、思った以上にあっけなかったわね。もっと、苦戦すると思ってたんだけどな。こらっ、もっと、がんばりなさいよ。張り合い無いわねぇ」


 シャアナは、サラダルスの上に乗って、つま先でつついていく。


「ふっふーん。あたしたちはそれだけ最強ってことね、ざまぁみなさい!」


 奴を倒せたことに、シャアナはいい気分になっていた。


「イブキさん、ヤバイです! 逃げて下さい、早く!」


 だが、セーラは逆の反応だった。


「どうした? やっつけたんだぞ?」

「やっつけてません! バイラスビーストは倒したら泡となって消滅するはずなんです。なのに、あいつは、まだ、消えてないっ!」

「なにかあるというのか?」

「分かりません! でも、嫌な予感しかしないです!」


 必死の形相で、俺の服を引っぱっていく。


「なにをビビッているのよ、なっさけない。泡になるのがちょっと遅れているだけでしょ。ナビは憶病もんだから、好きになれないのよねぇ」


 飛び下りる。呆れたように、俺たちの方に歩いてくる。

 彼女の背中にあるサラダルスの体が小さく震えていた。

 数秒して、震えが大きくなった。

 大きな口が開かれていって、中からガイコツの顔が現れた。サラダルスの体液で青く光っている。

 腕は四本。右上の手は骨で出来た長いソード、左には同じく骨の盾を構えている。

 ドクロという、俺たちが倒したことのある人型のガイコツのバイラスビーストと同じ姿だ。

 だけど大きさが違う。

 倍以上もあった。

 サラダルスの中にいたとは思えない巨大な体だ。


 ダークドクロ レベル27

 色は黄色で、賞金は22万。


「シャアナ、逃げろ! 早く! 早くしろ!」


 俺は叫んだ。


「え?」


 シャアナが振り向いた。

 その時にはダークドクロは立ち上がっていた。後ろにあるサラダルスは、泡が立ち始めている。


「なに……これ……?」


 ダークドクロは剣を振った。

 音もなく、シャアナの体は真っ二つになった。

 


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