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第34話:アルカンシェル(上)

 しんと静まり返った洞窟の中に、一筋の朝日が忍び込んだ。

 光に切り取られた細い空間には細かな土埃(つちぼこり)たちが現れ、悠々と宙を泳ぐ。

 光の束は日が昇るにつれ、太さを変え、角度を変え、やがて座ったまま眠るザイルの顔を優しく包んでいった。


「う……んんっ」


 まぶたの裏が赤く染まり、ザイルはそのむず痒さに顔を歪める。同時に意識がゆっくり覚醒し、昨夜までの出来事を1つ、また1つと思い出していった。

 最初に甦った記憶は父親の期待に満ちた目、次いで自分を見下すルームメイトの目、チーズを盗んだザイルへ向けられる数多の生徒達の責め蔑んだ視線。そのどれもが自分の居場所を奪っていった。

 しかし、悪夢のような記憶の最後に、褐色の瞳と燃えるような赤い髪が見えた。


(クレア)


 ザイルの中でその名前が蘇えった時、胸元のスースーした感触に違和感を覚えた。そこにあったはずのクレアの感触が消えているのだ。

 もしかして彼女はもうここを出て行ってしまったのだろうか――不安に襲われたザイルは両目をパチリと開く。


 クレアの顔が視界一杯に映った。


「うおあっ!」

「きゃあ!」


 ザイルとクレアの驚声が重なり、仰け反ったザイルは後頭部を木の根でしたたかに打ちつけた。


「いってえええ」


 打った場所を抑えながらも、ザイルはクレアがまだここにいた事に心からの安堵を覚える。


(良かった……でも、なんでこんな中途半端なところにいたんだ?)


 穴のちょうど中心、ザイルからつかず離れずの距離にクレアは座っていたのだ。まるでこちらを観察していたかのような――そこでザイルは気付いた。昨夜、自分はクレアを胸の中に抱いて寝たのだ。あんな状況で起きた時、女の子なら普通どう思うだろうか?

 背中をゾクリとしたものが走り、ザイルは立ち上がった。


「違うんだ! 俺、その、何もしてないから!」

「――え?」

「だから、あんなふうに寝てたのは、服とか汚れちゃまずいと思って。それにほら、壁も全部ゴツゴツしてるだろ? その、だから言うわけで俺は何もしてない! 本当だっ!」


 必死に両手を広げて主張するザイルに、クレアは口元を隠して微笑んだ。


「そんな事、別に心配していませんわ」

「えと、そうなのか? じゃあなんで俺の顔をじっと見てたんだ?」


 この言葉にクレアの態度が急変した。

 頬を染め、柳眉を吊り上げて烈火のごとく怒りだしたのだ。


「な、何て事を言うんですの! そんな事、この(わたくし)がするはずありませんわ!」

「え? でも、さっき確かに――」

「それは違います!」


 怒鳴ったクレアはスカートの裾をしっかりと掴み、硬い顔でツイと横を向いた。その様子は昨夜とはまるで別人で、口調まで貴族風に変わっている。


(いや待てよ、これがクレアの普段使ってる言葉遣いじゃないのか。だとしたら……)


「だから、その、外に出たら危険かと思って、あなたが起きるのを待っていただけですわ。それをたまたま起きた時に目が合ったからって、思い上がりも(はなはだ)しい――って、何をニヤニヤ笑ってるの!」

「いや、ごめん。だいぶ落ち着いたんだなって思って、ちょっと嬉しくてさ」


 そう言ってザイルが頬を掻くと、クレアはまた顔を横にそむけて呟く。


「まったく、そう言う趣味でもあるのかと思いましたわ……」


 その瞬間、ザイルが驚いた顔でクレアを覗き込んだ。


「クレア、さっきなんて言った?」

「な、何でもありません。ただちょっとあなたの趣味が――」

「違う! そっちじゃなくて、外に出なかった理由の方!」


 紛らわしいですわねと口を尖らせ、クレアは答える。


「だって外は危険でしょ? いつ兄様の手先に出くわすか分かったものじゃありませんもの」

「あああ! そうか、あいつが戻ってくるかもしれないじゃないか! こんな場所、穴の入り口を広げられたら隠れる場所も無いぞ!」


 ザイルは頭を抱えて自分の迂闊(うかつ)さを呪った。昨日の髭男、メシャクがまたやって来る可能性をすっかり失念していのだ。それをのうのうと同じ場所に居座り続けるなんて。

 傍らに落ちていた半月刀を掴むと、外の様子をおそるおそる覗き見る。

 外は既にかなり明るく、朝を通り越して既に昼近かったが、樹木以外何も見えない。


「とりあえず、見えるところにアイツはいないか」


 続いてザイルは穴を這い出て周囲を見回すが、そこでも人影ひとつ見つけることは出来なかった。ひょっとしてこの場所が分からなくなり、あきらめたのだろうか。


「いやいや、流石にそれはないだろう。となると……そうか、襲われた場所に残ってるなんて思わないか! そりゃあ普通は逃げたと思うよな。なんだそうか」


 ザイルは安堵の息を吐き、へなへなと大樹の根本に腰を下ろした。


「たぶん、それだけじゃありませんわ」


 背後から聞こえた声に振り返ると、穴からクレアが手を出していた。

 ザイルは慌ててその手を握るとい一息に引きずり出すと、クレアは服についていた土埃を払って立ち上がる。


「兄様の事です。放っておいても勝手に野たれ死ぬ、と思ったのでしょう。きっと今ごろ私が苦しみながら死ぬ様を想像して、薄笑いを浮かべてますわ。あれは人の皮を被った、悪魔ですもの」


 クレアの顔に影が落ちたのを見て、ザイルは彼女の正面に周ると胸を張った。


「大丈夫だって! 俺が、何があっても守ってやるから」

「……ありがとう、ザイル」


 頬を染めて小さく頷いたクレアを見て、ザイルは胸から湧き上がる熱い感情を自覚した。本当になんだってできると感じていたのだ。

 この時までは。


「ところで喉が渇いてしまったの。お水をもらえない?」

「――え?」


 ザイルの顔から血の気が引いていく。


「ザイル、どうかしたの?」

「あ、あはは、その……無いんだ」

「無い?」


 ザイルは言い難そうに、その事実を告げた。


「水も食料も、何も無いんだ」




 クレアがズカズカと歩き、そのすぐ後をザイルが追いかけていた。

 長身のクレアが大股で歩くと、結構速いから追いつくのが大変だ。


「おい、待てって。クレア」


 何度目かになる呼びかけに、ようやくクレアは足を止めて振り返った。


「信じられませんわ! 何も無くて森の中で生活してたなんて!」

「俺だって追われて逃げてたんだ。お互い様だろ? なんでそんなに怒るんだよ」

「怒ってませんわ。あきれてるんです! 守ってやるなんて言っておいて水も食料も無いなんて! しかもそんな大切な事を黙っていれば、私だって怒るに決まってますわ!」


 やっぱり怒ってるんじゃないか、とザイルは口の中で呟き、「でもさ」と反論する。


「昨夜、俺の焼きチーズ食べたじゃないか。もっと感謝してくれてもいいだろ?」

「あ、あれはあなたが勝手に差し出すから食べただけですわ! それを感謝しろだなんて図々しくなくて?」

「なっ――」


 これにはザイルもムカッとした。あれは汚名を被ってまで得た最後の食料だったのだ。

 昨夜の誓いもどこかに飛び去り、売り言葉に買い言葉を叩き返す。


「図々しいのそっちだろ! 俺は召使いでもガーディアンでもないんだ! だいたいラーゼ家の人間なのに、なんで自分のガーディアンくらい入学させないんだよ!」

「させました! あなたが手に持ってる剣、それはもともと私のガーディアンの物ですわ!」


 ザイルは手に持っていた半月刀をまじまじと見つめた。


「な、なら、そいつに守ってもらえばいいじゃないか。そいつ今どこにいるんだよ」

「ビスキムは、死んだわ」


 クレアのポツリと言った言葉に、周囲の温度が一気に下がる。


「ビスキムは、お父様が手塩にかけて育てたガーディアンだったわ。アグリフ兄様のガーディアンにだって負けないくらいの」

「それが、何で殺されたんだ?」


 クレアは「馬鹿な理由よ」と自嘲気味に笑った。


「兄様の様子がおかしいと言って、ビスキムは兄様の手下を見張っていたの。ほら、昨日の野蛮な男ですわ」

「ああ、あのヒゲモジャの奴か。ありゃ傭兵って言うより山賊だな」

「ええ、学院用に兄様が雇った盗賊の遺児ですわ。あんな奴にビスキムが負けるはずが無かったのに、なのにナイフ一本で2人を相手に斬りかかっていったの! 何故だと思って? たかが貧民の小娘を助けるためよ! 信じられませんわ!」

「そりゃ、災難だったな……でも、なんでそんな事まで分かるんだ? その場にいたのか?」


 クレアは小さく首を振り、両手で自分の腕を掴んだ。


「次の日、兄様に部屋へ呼ばれたの。まさかそんな事になってるなんて思わなかったから、何の覚悟もしないで部屋に入ったわ。そしたら隅でビスキムが死んでいたの。驚いて、頭が真っ白になって……なのに兄様はいつもの薄笑いで丁寧に説明したわ。そして最後に私に聞くのよ。お前は私を殺そうとしたのかって」

「ち、違うよな?」

「違うわよ! 何のために今まで愚かな妹を演じてたと思うの? ルガ兄様やクリシュナ姉様が殺されても知らない振りして、バカみたいに笑ってたのは、あんな悪魔に関わらないためよ! なのに、なのに――」

「もういい。クレア、変な事聞いてごめん」


 


「……私の方こそ、ごめんなさい。ちょっと、我侭すぎたかわ。ザイルは召使いじゃないのに」

「いや、いいんだ。それより早く水と食料を探さなきゃな」


 そう言って、今度はザイルが先頭にたって進み出そうとした。


 キュッ


 制服が僅かに後ろに引かれた。

 クレアがザイルの制服の裾をつまんだのだ。


「クレア?」

「……あの、怖くなったわけじゃないの。ただザイルが先に行き過ぎないようにって。その、ダメかしら」

「い、いや」


 頬を染めて言うクレアに、ザイルはこみ上げてくる嬉しさを叫ばないように必死だった。

 今、自分は頼られているのだ。

 これまで蔑んだ目でしか見られていなかったのに、頼られているのだ。

 絶対に水も食料も住む場所も見つけてみせる。そう心に誓い歩き始めた。




 あっと言う間に時間は過ぎ、辺りが暗くなる。

 そう簡単に水や食料など見つかるわけもなく、ただ疲労と不安だけが募っていった。


 チチッ チュイ


 鳥達の声にクレアが驚くのが、裾を通して伝わってくる。

 無理もない。命を狙われた恐怖は、1日や2日で消えるものではない。


(しかも、こんな頼りない男しかいないんじゃあな)


 ザイルが肩を落として天を仰ぐと、頭上を小さな鳥がついと横切った。


(そう言えば、鳥が増えてきたな……っ! そうか!)


「クレア! 食料と水が一気に見つかるかもしれないぞ!」

「……え?」

「いいから、こっちだ!」


 ザイルは方向を変え、歩き出した。


「何? ザイル、何か見つけたの?」

「いや、それはまだだ。でもほら、見てみろ。木の種類が変わってきただろ?」


 言われてクレアは気が付いた。さっきまではガッシリとした大樹ばかりだったのに、ひょろりとした木や背の低い木が増えてきた。

 それに、鳥達の声が大きくなっている気がする。


「でも、それがどうかしたの?」

「鳥が多い。確か、鳥が多く生息してるところには食べられる実を結んだ木が多いって、農学部の試験にあったんだよ」


 正確に言えば果樹園を作る時、必要な事を3つ記述せよだった。その内の答えの1つが鳥避けをする事だったのだ。

 たしかに森に住む鳥が食べるとすれば、虫か木の実くらいのものだろう。

 もし果物でもあれば、飢えも渇きもいっぺんに解決できる。

 ザイルは薄暗くなった中で、鳥達の集まる方を凝視し、歩き続けた。



「あった……本当にあった」


 僅かに色づき始めたマルベリーの実がついた果樹が、目の前にあった。

 ザイルとクレアに気付いた鳥達が、慌てて飛び去っていく。


「すごい! ザイルすごい!」


 クレアに褒められ、ザイルはようやく果樹を見つけたんだと言う実感が湧いた。

 ザイルは早速持ち前の身軽さを活かしてひょいひょいと木に登ると、マルベリーの実を持てるだけ持って降り、クレアに差し出す。

 受け取ったマルベリーをまじまじと見て、クレアはごくりと喉をならした。


「食べても大丈夫なのよね?」

「ああ、母様がよくこれでジャムを作ってくれた。確か、そのままでも食べられるはずだ」


 2人は薄紫の実を、おそるおそる口に入れた。


「うわ!」

「すっぱい!」


 まだ熟していなかったのか、その実は顔が中心に寄りそうなほどすっぱかった。

 あまりのすっぱさに2人は涙目になって見つめ合うと、自然と笑みが零れた。


「これで餓え死にの心配は無いはなくなったな」

「そうね。ありがとう、ザイル」

「お、おう」


 ザイルは気恥ずかしさに頬を染めた。


「でも、考えてみると不思議ね。なんでわざわざ鳥に食べらちゃうような実をつけるのかしら」

「ああ、それは違う。果樹は動物に食べてもらえるような実をワザとつけてるんだ」

「ワザと?」


 ザイルはマルベリーの種を口から取り出すと、手の上に転がした。


「鳥が実を食べても、この種だけは消化されないんだ。だから鳥は知らないうちに種蒔きをさせられる事になる。ご丁寧に栄養たっぷりの(ふん)と一緒にな」

「すごい! それをこの植物が考えてやってるの!?」

「いや、さすがに考えては無いだろうけど……そうか、言われてみると、とんでもない事だよな」


 ザイルは手のひらの種をもう一度転がした。

 この小さな粒が芽吹けば、やがてザイルよりも大きな木になり、その木もまた鳥を使って新たな子孫を残すのだ。

 たしかに、出来過ぎている。


「ザイル、どうかしたの? 急に考え込んじゃって」

「うん。俺、神なんて信じてないだけどさ、でも時々、自分が大きな意志の手の平で踊っているんじゃないかって、そう感じることがあるんだ」

「もしそうなら、神様は意地悪ね。なんで兄様みたいな悪魔を生かしておくのかしら。なんで私達を助けてくれないのかしら」

「助けてくれないか……」


 ザイルは持っていたマルベリーをもう一粒口に入れた。

 それはやはり、とんでもなくすっぱかった。


「でも、俺にはこれで十分過ぎるよ」


 クレアを見つめ、ザイルは笑った。





 巨大な鍋が森の中をゴロンゴロンと転がっている。

 いや、3人の男女によって転がされていた。


「ナバル、ちゃんと支えてよぅ。転がしにくいったらないよ」

「それはウルスラに言ってくれ。俺はもう手がパンパンなんだって」

「まったく、だらしないね。だからあたしは反対したのよ。こんな大鍋持っていくなんてさ」


 ぎゃあぎゃあと騒ぎならがらも、3人組はひたすらに大鍋を転がしていく。

 だがナバルと呼ばれた男が疲れきった手を離して休憩しようとすると、残りの2人もやってられるかと一斉に手を離した。

 ゴワンゴワンと大鍋が地面に転がった。


「ナバル、やっぱり道を間違えてるんじゃないかな? いくらなんでももう着いてもいい頃だろ?」


 大鍋を後ろから押していた大男が眉をへの字にして尋ねると、その隣にいた神経質そうな女も目を細めてナバルを糾弾する。


「だからあの情報屋から地図を買っておけば良かったのよ。ケチるところを間違えてんじゃないわよ!」

「悪かったって。まさかこんなに広い森だったなんて思わなかったんだ。船から見た時は小さい島だなって思ったのになぁ」


 ナバルは途方にくれた顔で天を見上げた――その時、背後からぬっと剣が延びて、喉元にぴたりと押し当てられた。


「大人しく食料と水を渡せ」


 半月刀を手にザイルが低い声で脅した――が、ナバルの仲間2人は指を突きつけて素っ頓狂な声を上げた。


「あんた! あの時のこそ泥じゃないか!」

「本当だ。焼きチーズを盗んでいった人だ!」


 過去の汚点をほじくり返され、すっかりバツが悪くなったザイルは歯を剥き出しにして喚いた。


「う、うるさい! さっさと食料と水を出せ! さもないと――」

「なあ、君。食料が欲しいなら分けてやるよ」


 穏やかな声で、ナバルが説得する。


「ほ、本当か?」

「ああ、本当だとも。でも、食料なんてすぐになくなる。その後はどうするつもりだい? またこうやって追い剥ぎでもするのかい?」


 痛い所を突かれた。マルベリーの実も1週間ともたずに食べ尽くしてしまったのだ。


「それより良い情報があるんだ。聞きたくないか?」

「じょ、情報?」


 いつの間にか、ザイルは剣を突きつけられているのが自分ではないかと言う錯覚に陥った。

 それほどにナバルは落ち着き、飛び切りの秘密を打ち明けるように告げる。


「今、学院から逃げ出す奴が後を経たない。あのアグリフの貴族政治に反発した連中だ。そして、そう言う奴等を受け入れてくれる場所がある。それが、アルカンシェルだ」

「アルカンシェル……」


 公用語だろうか、と公用語の苦手なザイルは額にしわを寄せた。


(たしかシェルは空の意味で、アルクは橋だから)


「空の橋? なんだそれは?」

「たぶんそんな意味だろうが、情報屋から大枚を叩いて買った情報によればアルカンシェルは砦らしい。そこには食料も水も、なにより自由がある。俺達の理想郷だよ」


 ザイルの喉がゴクリと鳴る。


「本当にそこに行けば、俺でも受け入れてもらえるのか?」

「まあ、俺が行けば大丈夫だろうな。なにせ俺はそこのボスと知り合いなんだ。まぁ、こんな悪事をやめて、働いてくれたら紹介してやらんことも無い」

「ボス? どんなヤツなんだ?」


 いつの間にか、ザイルは剣を引いて食い入るようにナバルから情報を求めていた。

 静観していたナバルの仲間も、既にザイルを警戒すらしていない。ただ目で「落ちたわね」「これで楽になるよ」と意思を交わしているだけだ。


「どんなヤツか……見た目は可愛い女で、年齢は14くらいかな」

「女? それに14歳って、ただの子供(ガキ)じゃねえか!」

子供(ガキ)? 子供か! あはは、言われて初めて気がついたよ。あいつはまだ子供だったんだ!」


 ナバルはケタケタと笑い、ザイルは変な事を聞いたのかと不安から「何の事だ」と怒鳴る。


「ああ、すまない。確かにそいつは子供だな。だが、子供だからなんだ? この学院(しま)で必要なのは年齢か? 身分か? それとも才能か?」

「……とんでもない子供って事か」

「ああ。そいつの名前なら、お前だって聞いた事くらいはあるはずだ」


 ナバルは自分の事のように胸を張ると、唇の端を吊り上げその名を告げた。


「アルマ=ヒンメル、あの貧民だよ」



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