様々な現実との戦い
現実は……思ったよりも無気力で。
だからこそ逃避したくなるんだろう。
この世界は自分の居たい場所じゃないから。
夢を描き、現実を描き、僕らは何をすり減らしているのだろう?
僕らは世の中と戦っているのだろう。
だから傷つき、傷つける。
それでも世の中と関わるのをやめない。
それが―――物語を創る者の宿命だから。
始まりを紡ごうとしたとき……頭の中に何が浮かぶ?
草原?
廃れた町?
それとも学校の教室?
浮かんだことは現実とは違う。
どこか同じでも、どこか違う。
創るということは、見たことある景色では無くて。
だからこそ現実とはかけ離れている。
そこでは難しいことを言っているのかもしれない。
誰も理解できない考え方をしているのかもしれない。
突然ドラゴンが襲ってくるのかもしれない。
空から女の子が降ってくるのかもしれない。
何が起こるかわからないのに、それらが起こるのは必然なんだ。
―――全て、誰かに仕組まれた出来事なんだ。
◆
……ならば。
僕はこの白い世界から出られないのだろうか?
どうやっても起こることは決まっているのなら、絶対に不可能なんじゃないだろうか?
もう、テーブルの上のリンゴも、1個しかない。
しかし一つだけ、今までと違うことがある。
……僕は、全てを知っている。
この世界のことも、“外の世界"のことも。
僕はリンゴを手に取り、一口かじった。
……すると、部屋の隅にライオンが出現した。
僕はもう、スコップで応戦しようとはしない。
ライオンがこちらに駆けてくる。
僕はそれをジーっと睨み付けるだけだ。
そして、ライオンが口を大きく開けて襲い掛かってきた瞬間―――僕はある言葉を唱えた。
「エクスクラメーション」
世界が……闇に包まれていく。
本来なら早すぎる展開だろう。
しかし、恐れることは何もない。
何故なら物語は、書き換えることができるのだから。
闇は僕の周囲数センチ近くで、動きを止めた。
―――そして、世界は色を取り戻す。
床は茶色く、壁は灰色に、
テーブルは緑色。
空は青く。
?(クエスチョン)……すなわち疑問は、
!(エクスクラメーション)……すなわち驚きに換わった。
しかし僕はまだ、気づいていなかった。
僕は全てを知っていると錯覚させられていることに。
物語の登場人物は、それすらもコントロールされてしまう。
創る人の好きなように、作り換えられてしまう。
――――そんな単純な事実を、僕は知る由もなかった。
【あとがき】
この話は以前上げた『クエスチョン?』という話と繋がっているのですが、続編ではなく派生的な作品です。
もともと繋げる予定は無く、自分と同じようにネットに小説を上げている人達の心情を考えて作り始めた話です。
しかし『クエスチョン?』や、この話に出てくる“僕"はなんだか可哀想ですね。
白い世界に閉じ込められたり、そこから抜け出したと思ったら、物語に閉じ込められているという……。
彼だけではなく、小説の登場人物というのは文字の中でしか生きられないものです。
それを生かすも殺すも筆者次第。
だったら自由に動かしてあげるのも1つの手なのかもしれませんね。
だって、僕らが現実だと思っているこの世界も、1つの物語でしかないのかもしれませんから。