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作品 4 「雀」
雀
「相も変わらず、よくもまあ同じことばかり考えていられるわね」
私が冷えきったコンクリート階段の僅かな踊り場に腰を下ろして考え込んでいると声がした。私にとってはお馴染みの声だ。若いが、低音が掠れたハスキーヴォイスである。彼女はいつも私の思考の邪魔をする。
「うるさいな!」と私は言った。だが誤解しないで戴きたい。私はかつて本心から彼女をうるさく思ったことは一度もない。私は孤独である。ここ、地下鉄・地下道に囚われてからというもの現実的に私はずっとひとりである。だから、たとえ声だけの存在とはいえ、彼女は私の唯一の希望、慰め、救い、そしてそれ以上の何かだった。
○「非物語(濃縮小説)」
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Sparrow