作品 37 「遠ざかる自画像」
遠ざかる自画像
長くは続くまい。次には甘い囁きに変わるだろう。私が都市を、とりわけ、この地下鉄・地下道を愛しているように、彼女はたぶんこの私を愛しているのだ。もちろん、私も彼女を愛している。全人類の存在と交換しても惜しくないくらいに愛している。もっともこれは愛を語るものたちの、あまりに当たり前の常套句でしかないだろうが……。
私は今はまだ止まない彼女の罵りの言葉を遠く子守歌のように聞きながら、この地下鉄・地下道のシャッターの開く日はいったいいつなのだろうかと思っていた。
○「母の浮気」
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次女の茜と違い、幼い頃から母に疎んじられてきたと感じている長女の梓。縁あって公務員の夫と結婚するも、自分にも母の血が流れていると思うと子供を持つ気になれない。そんな折、休日のウォーキング中に老舗の蕎麦屋で母が自分の知らない老年の男と愉しげに会食する姿を目撃する。
Self-portrait which goes away
ネタバレ:当時この話を読んでカセットテープの彼女と語り手が同一人物(つまり性的にも世界から追放されている)と喝破したのは山野浩一さんだけじゃないかと思います。「宇宙塵」の柴野さん経由でもう一つの中篇とともに山野さんにお話を読んでいただいたことが、今のわたしの大きな宝物となっています。




