壁を登る少年
俺はロッククライミングの要領で壁を登っていく。全身、主に腕と足にかなり負荷がかかっているが、気にせず更に登っていく。
どれぐらいの所にいるだろうか? 確認したいが下は絶対見れない。壁は結構な高さがあるから、見たらきっと怖じ気付いてしまう。だから上を見上げてみる。少し先に壁の終わりが見える。もう少しだ。もう少しで頂上に登り詰める事ができる。俺は疲れてきた体に気力を漲らせてまた少しずつ登っていく。
「痛ッ!」
壁は凄くザラザラしているから、指が削れてボロボロになっていく。爪も割れ、ジワジワと嫌な痛みが襲ってくる。それでも俺は気にしない。これくらいでは諦めない。俺は頂上へ行きたいんだ。俺は壁の頂上から見る景色がとても好きなんだ。頂上の景色はいつもは遠い空がグッと近くなって、俺がいつもの俺じゃなくなるような解放感に包まれる。頂上にいる俺は頂上にしかいなくて、他の場所では姿を現さない。そして、頂上には俺以外の人間は現れないから、頂上の俺を知っているのは俺しかいない。俺が俺だけの俺でいれる時間。俺が世界に近くなる時間。その時間の為だけに俺は登り続ける。
頂上はもう少し先だ。俺は頂上に行きたいんだ。
(壁を登る少年は頂を目指し登り続ける)