南の方から
ある日、不思議な体験をした。
自室にて、本を読んでいる時のことだった。開いていた背後の窓から――遠くの方から、甲高い音が聞こえてきた。
――アーーーーーーーーーーー……
カラスの鳴き声だと思った。だが、よくよく聞いてみると“赤ん坊の泣き声”にも聞こえる。……しかし“息継ぎ”が無い為、どちらでもないのだろう。
――アーーーーーーーーーーー……
その音は、だんだんと大きくなってゆく。いよいよ背後を振り返って、窓から見てみようかと思った。しかし――
――アーーーーーーーーーーー……
ゆっくりと近づいてくるその“なにか”を見る、瞬発的な勇気が足りなかった。
やがて、音が最も大きくなった時。
辺りは一瞬、大きな雲が太陽を遮ったかのように、真っ暗になった。
――ア"ーーーーーーーーーーーー……
そして、音は遠ざかっていった。
それはちょうど南の方から来て、北へと向かって行った。