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いつまでも笑顔で

作者: るべる

大学1年の時に出会った二人。

告白したのは、勇気の方からだった。


…しかし。

その頃の愛美は、明るくて元気な勇気に憧れの感情しか抱いていなく、その告白を保留にした。


だが、友達として毎日付き合っているうちにだんだんと勇気の事が好きになり、数週間後に二人はとうとう付き合いだした。



…だが愛美は、生まれつき重い病気にかかっていた。

大学2年生になってからは、学校を休む事も多くなった。


互いの家には自転車で20分程度で行ける距離なので、気軽に見舞いにもいけた。


勇気はバイトがある時でも、欠かさずに愛美に電話をした。


「元気?」


いつもの感じで、愛美に聞く。

愛美は明るい声で


「大丈夫だよ!」


なんて答えてくれていた。



会えなくたって、幸せだった。


だって、信じていたから。

愛美が元気になるって。




…雪の降る、寒い寒い朝の事だった。



1/29。




愛美が亡くなった。


そう、電話で聞いたような気がする…



__________



…ねぇ、勇気。

早く元気を出して?



私自身もそうだけど…勇気だって覚悟はできていたはずでしょう?


勇気だって私の病気の事、前から知っていたんだから。



昼間なのに、カーテンを全部閉めてまっ暗になった部屋。

布団に入り、丸まって、すすり泣く。



私は、そんな勇気見たくないよ…


ねぇ、勇気?

私ね、幽霊なんて信じてなかったんだ。



でも、今………

あなたの部屋にいる私は、紛れもなく幽霊なんだよ。



今更…本当に今更なんだけど、幽霊の存在を信じられたんだ。


「幽霊なんかいないよ!」


って言ってたけど、それ…訂正。




いるよ。


幽霊は。



私は、ここに。


あなたの、近くに。



あんなに明るかった勇気が、今じゃ元気のカケラも感じられない。



時には、死ぬ事すら考えている。

そして、いろいろと後悔している。



私にはそれが痛いほど伝わってしまうんだ。



どうしてだと思う?


…幽霊だから?





…いや、きっと違う。



私が、勇気を好きだから。

いつも近くで勇気を見てたから。


違うかな?




ちょっとした表情の変化や動作を見るだけで、勇気が何を考えてるか…何をしようとしてるのか。



けっこう、伝わっちゃうんだよ?



あなたは自室に引きこもったまま外へ一歩も出ないよね。


あんなに楽しそうにやっていたバイトを無断欠勤。

バイト先の人が何も言ってこないのは、勇気になにがあったのかを知っているからだろうけど…


みんな、心配してると思う。



もちろん勇気のお母さんだって、常に勇気の事を心配してるんだよ?




…それに、私だって。









勇気…お願い。

早く元気になって。



私の想い……

伝わるかな………?




私があなたの前からいなくなってから一週間が経った。


相変わらずの勇気。

一週間前と、何も変わっていない。


もう、見てられないよ………!



見てられないけど、見なくちゃいけない。

だって、勇気を泣かせてるのは私だから。


でも、そんな勇気を見てると、私までも泣きたくなる。




だけれど、私は幽霊になってから涙が出せなくなっていた。


勇気は、泣いたり…泣きやんだりを繰り返した。


目が、赤く腫れていた。





お願い勇気。

もう、私の事で泣かないで。


私は、あなたにいつまでも笑顔でいてほしいんだよ。



「………愛………美…。」



……


ん………?


…勇気?


何か………喋ってる?




「俺なんかと居て……愛美は楽しかったんかな………幸せだったんかな…………。」



聞き取りにくかったが、私にはそう聞こえた。


私は、泣きそうになった。


だが、この身体では泣く事は許されなかった。




「…幸せだったよ、勇気。喧嘩した時だって……いや、どんな時だって。

あなたと一緒に居られて、私は幸せだった。毎日楽しかったよ…!!」



聞こえるはずもないのに、勇気に向かって話しかけていた。

話しかけると言うよりも、ほとんど叫んでいるような状況だった。


どんなに大声を出しても、勇気に聞こえないのはわかってる。



でも、私という有り得ない存在がここにいる事を誰かが許してくれたのなら、私の発する声が届く可能性だって無いとは言い切れないから…!



「だから………お願い。泣かないで。元気を出して?今まで私にくれていた元気を、あなたに返すから。

笑ってる勇気が、私は一番好きなんだよ……!」



私の目から、一粒の涙がこぼれた。

それは…この一週間を過ごした私からしたら、有り得ない事だった。



「……なんで?今まで泣きたくても泣けなかったのに……?」



その小さな粒は、布団で丸まっている勇気の頭上の布団に零れ落ちた。




……ポタ。





小さく音をたてる、私の涙。

薄いシミになり、布団に吸収されていく。




その瞬間……

勇気は布団を取り、その音がなんなのかを確かめだした。



「水?」


湿っている布団に触れる勇気。


私はなんだか、嬉しくなっていた。


勇気と……

久々に触れ合えた気がして。



「……愛美?」




勇気は私がいる空間を見つめ、そう一言呟いた。



なんでだろう。

向こうからは絶対に見えていないはずなのだが…


私と勇気は、目が合っているようにすら感じられた。


真正面から見つめたのは、本当に久しぶりだった。

生きているうちに目に焼き付けたかったその顔が、私の目前にあった。

見た感じだと、前に比べて勇気は少し元気になったように思えた。


しかし。



「いるわけ、ないか…。」


勇気はまた、布団に潜り込もうとしていた。




…ダメだよ。

勇気、お願い。

閉じこもらないで。




自分自身から抜け出す、勇気を出して……!



私は、勇気の部屋のテーブルの上にあるオルゴールに手を伸ばした。



つい一ヵ月前のクリスマスに、私が勇気にあげたものだった。




「鳴って……お願い………!」



しかし、オルゴールに触れる事が出来ず、勇気はまた布団に丸まってしまった。



奇跡は、二度も三度もそう易々と起きるものじゃないから奇跡というのだろう。




さっきみたいな奇跡は、もう起きないの…?


いや。奇跡なんかじゃないはず。

可能性があるかぎり…私は続けてみせる。



奇跡は起きるものじゃなくて…




゛起こすもの゛だから!!!








…一時間は経っただろう。

オルゴールに触れる事などできず、何回も空振りをする私の手。


「無理なのかな…。」



諦めかけた、その時だった。




チリン…………





オルゴールが、鳴った。


1秒…

いや、それ以下かもしれないが、オルゴールは微かに鳴った。



…勇気にそれが聞こえただろうか。

私は、勇気の方を見る。


「え………?」




勇気は、布団から出て来てくれた。

そして、私の方…というよりもテーブルの方に歩み寄ると、このオルゴールに手をかけた。



「鳴った?愛美のくれた、このオルゴールが…?」



すぐにゼンマイを回し、勇気はオルゴールを鳴らした。


勇気は、オルゴールを見つめながらその音色を聴いていた。

もちろん私もそれに聞き入っていた。


私も勇気も、涙は出ていなかった。




…ねぇ、勇気。

その歌の歌詞……覚えてる?




君がいてくれるから

私は 大丈夫


私が側にいるから

君は いつもの君で


どんなことがあっても

二人は ずっと一緒


ねぇ 泣かないで

ねぇ 元気出して



いつも 笑っている君が

私は大好きなんだよ




オルゴールが鳴りやむと、勇気は突然


「そうだよな………愛美。」


と、オルゴールを見据えたまま呟いた。



「俺がいつものようにしてないと、お前ダメだもんな。」


オルゴールに向かって笑いかける勇気。

久々に見れた、あなたの笑顔。

まるで私に向けてくれているようで…胸がいっぱいになった。

目にうっすらと溜まった涙は、今にも渇きそうになっていた。



「ごめんな、愛美。死んでからも迷惑かけちまって。」



勇気はオルゴールから目を離し、私の方を見た。


「え?」


…本当に見えているかのように。

まるで、あの頃に戻ったかのように。


そこにいるのが当たり前 みたいな感じで振り向かれ、私は少し焦った。



「ここにいるんだろ、愛美。姿は見えないけど。」



昨日までは全く泣けなかったはずなのに、私の目からは大きな涙が大量に流れた。


何回も何回も、絶え間なく零れ落ちる。



床などは濡れなかった…いや、視界が霞んでよく見えないだけなのかもしれないが、私は確かに涙を流していた。



…でも、そろそろ勇気とお別れしなくちゃいけない。


せっかく話せたのに。

せっかく私を見つけてくれたのに。


もう、消えなくちゃいけないって、直感でわかるの。



「俺は、お前と一緒に居られて…楽しかった。

毎日が本当に楽しかった。」



…うん。そうだよ。

私だって、同じだよ。




「こんな姿を見せて、ごめんな。だから、俺……。」





ううん、もういいの勇気。

泣かないで……


もう、これから先、私の事で泣いちゃダメだよ。


ねぇ、勇気……

私はね…………?




「俺な……お前がいつも言ってた事、守るから。」


私が、いつも言ってた事って……



「…いつまでも笑顔で。だよな。俺は……お前との約束をちゃんと守るから。」

「勇気、覚えててくれたんだ…。」



そう言い切った勇気の目は、もう、少しも潤んではいなかった。




「ありがとう、愛美…。」


…やっと、伝わった…………


良かった。

勇気が、大切な事を思い出してくれて。


私も勇気も、この一週間頑張ったよね。



勇気は立ち直れたし。

私の最後の願いは、無事あなたに届きました。





本当に……

良かった……






そう思った途端、私の身体がつま先から消えかかり始めた……!


あっという間に下半身が消え、上半身にさしかかる。


私という存在が、この世界から消えるのに10秒もかからないだろう。



消えるのは、正直言って怖い。

みんなに忘れ去られるのが怖い。

けれど、そんな事を考えていても仕方がない。

私は、聞こえるハズが無いのを承知で、勇気に無我夢中で話しかけた。



これがもう、本当に最期だとわかっていた。




「勇気、大好きだったよ!いつまでも笑顔でいてね…!」



口辺りまで消え、鼻・耳に差し掛かろうとしていた。




「…俺も、お前が大好きだったよ。ありがとな……愛美。」



返ってきた言葉に驚く事もできないまま、私は姿を消した。




__________



「愛美に笑われないように…しなくちゃな。」


まだ手に持っていたオルゴールをゆっくりとテーブルに置く。


さっきまで部屋に満ちていた不思議な感じは、完全に無くなっていた。



俺は久しぶりに部屋から出て、ドンドンと音をたてながら階段を駆けおりていった。

居間のドアをダンッ!と開けると、そこには今にも泣き出しそうな母さんの姿があった。



「母さん、お腹空いたよ。」



久々に聞く俺の声に、母さんは号泣。


でも、俺は笑った。



「何泣いてんだよ母さん!」


今はそんな母さんを笑い飛ばす余裕すらある。




ソファに座り、ご飯ができるまで携帯をいじることにした。

一週間以上いじっていない携帯には、メールやら着信やらが多数あり、全部を見るのに時間がかかった。



そんな中、一つのメールフォルダが目に入る。


愛美☆彡という、愛美専用のフォルダだった。



それを開き、一番古いメールを見ると。





愛美


件名:メリークリスマス


こんな私と、いつも一緒にいてくれて有り難う(´▽`)

クリスマスプレゼント、喜んでくれるかな?


勇気、大好きだよ

いつまでも笑顔で、私の側に居てね。





涙が出そうになるが、俺はそれを止めた。






…ホント、愛美には最期の最期まで迷惑かけちまったな。








俺、お前との約束…ちゃんと守るから。


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