麻巳子
霊感があると自称している同級生は何人かいた。そのうちのだれが本当に見える人だったのか、それとも見える人なんて誰もいなかったのか、それはいまだに謎だけど、とりあえずあの道が見えたのは私だけだったようだ。
それが霊感なのか、今にして思えば先祖がえりなのかはいまだに判断がつかない。
そのまま歩いて行く、この辺は生まれた時から知っていた。たぶんあの辺りにつくだろうと脳内地図を検索していた。
しかし、気がつけばここは軽井沢だった。
白樺がどんな木なのかよく知らない。ただいつの間にか木陰で湖のほとりに立っていた。
登下校するあたりの地図は頭に入っている。
だから、このあたりにこんな広い湖がないことは常識として知っていた。
「ここはどこ」
背後を振り返れば、そこはのどかな田園風景。印象派の絵のような風景が広がっていた。
ここをまっすぐ歩いて行けばあの商店街に戻れるだろうか。
肩にかけたスポーツバッグと鞄がものすごく重くなった気がした。
ちちとなく小鳥をふと見ると。それはたぶん仏教の宗教画に出てくる迦陵頻伽という人と鳥の合体した生物で、それがカナリヤサイズで歌っていた。
どうやらここは軽井沢ですらないとその時ようやく気づいた。
どこをどう走ったのか、さっぱりわからないが、気がついた時には、もといた場所とすらかけ離れた場所に来ていた。
だけど、そこは普通に走ってきたくらいでは行けるはずのない場所だった。
風景ががらりと変わっている。
滴る緑と湖のある場所から、軽く息を切らすくらいは知ったら、いつの間にか不毛の砂漠に出ていたなんてありそうもないことだ。
周りを見回しても、緑らしいものは全く見当たらない。
たぶん、あの時月無と出会わなかったらいつまでもあちらを彷徨っていただろう。
月無に気に入られた私はそれ以来何度もあちらを行き来するようになってしまったのだ。
それは何回目のそれだったろう。
最初に見たときは吐きそうになったけれど、もう慣れた。
それは巻き込まれてしまった人間の死体。
私は無感動にそれを見下ろしていた。
場が開くのが分かった。
いつの間にかそれが分かるようになってしまっていた。
黒いライダージャケットのような格好の少女がその場を通り過ぎるその一瞬目が合った気がした。
あれがどうなるかわからないけれど、私はただ見送っただけだった。
そして、母が電話の前で、優花がいなくなったと騒いでいた。優花は最近素行不良で家出まがいのまねを何度もしていたためいつものそれだろうとその時は思っていた。
それきり優花の消息はきれいに消えた。
今にして思えば、あの時通り過ぎて行った少女が優花だと気づかなかったのはひとえに髪形が違っていたせいだろう。
その時の常識でたった一月で、ショートカットから腰までのロングヘアになるなんて想像もしなかったのだ。




