青金
麻巳子さんはしばらく額に手を当てて考え込んでいた。
「実はあっちとこっちをしょっちゅう行き来していたから、心当たりはあるようなないような」
「ねえ、見たことある」
そう月無に尋ねる。その様子は間違いなく相当な歳月連れ添った夫婦に見えた。
「青金が来た時、パパがいたこともあったよ」
空が爆弾発言をしてくれた。
私が麻巳子さんとさし向いにお茶を飲んでいるそのテーブルに月無が無言でついていたこともあったとか。
週一ペースで月無はあの家に現れて、一家団欒状態だったとか、知らなかったことを続々ばらしてくれる。
いや、よく考えてみれば、最初からおかしいことはあった。
なんであの攻撃衝動の塊みたいになった空が、月無だけ襲わなかったのかとか。
よくよく思い出してみれば、明らかに、空は月無と、初対面ではありえない会話が成立していたとか。
月無はなんだか私のことを知っているような顔をしていたとか。
今になって自分のうかつさに頭をかきむしりたくなる。
見れば、理津子さんと円さんがいまだに硬直から抜け切れていない。
「あはは……」
力なく笑って円さんがくずおれた。
「馬鹿みたい」
円さんは月無を見ていた。
「息子を保護しに来た父親をなんかいろいろと疑っていて、さんざん考えて、危ない橋まで渡ってこの落ち」
脱力する気持ちは少しわかったけれどどっちかと言えば衝撃の過去のほうが私にはダメージがでかい。
あの冬も同じ炬燵でお茶を飲んでいたんだろうか。
なんだか現実放棄していた頃、ようやく麻巳子さんが心当たりを掘り出した。
「そうそう思い出した、うちの人と付き合いだしたころだ」
「そうなの?」
そのうちの人は黙ってそこに佇んでいる。
「まだ空や夜が生まれるというかできる前だったのは確かよね」
それから遠い目になった。
「結構酷い目にあって、ほうほうの体で家に帰ったら、優花が家出したって親が騒いでたんだっけ、そっか、関連づけしてなかったけど、そう言えばそうだった」
なんだか、これからやばい話が始まる気がした。
「でも、こんなところで旦那との馴れ初めを放すのもちょっと恥ずかしいわね」
論点がずれてます、麻巳子さん。
「麻巳子さん、親戚に空や夜の父親の写真も見たことがないといわれてるのってなんで」
話をずらそうとそんなことを聞いてみる。
「決まってるじゃない」
麻巳子さんは晴れ晴れとした笑顔で答えてくれた。
「月無は写真に写らないのよ」




