青金
麻巳子さんはしばらくぱちぱちと目を瞬かせていたけれど、不意ににんまりとした笑みを浮かべた。この中の唯一の子持ちにして、余命五十年なら、九十近くまで生きられる立派な長寿を約束された麻巳子さん。
でも、麻巳子さんはすでに若いころからこちらを知っていたというかまとわりつかれていた。だから本気でどっちを選ぶのか見当がつかない。
「私が選んでもいいの?」
「二つしか選択肢はないが」
玉響媛の気のない顔を麻巳子さんはまっすぐに見た。
「優花、悪いけど、どちらも取らない」
玉響媛が人だったときの名前で、麻巳子さんは宣言した。
「どちらも取らないとは、どういうこと」
「意地が悪いよね、二つ選択肢を用意すれば、その二つしか考えられない。ほかの選択肢があるなんて思いもよらない」
くすくすと麻巳子さんは笑う。
「客観的に考えて、その二つ以外の選択肢はないと思うが。」
「でも私はどちらも選ばないと言っているわ」
玉響媛は不機嫌そうに眉を寄せた。
「選択肢は二つしかない。それ以外を選んだ場合、待っているのは確実な即座の死だ」
その言い分は玉響媛が正しい気がする。普通の人間としてあちらに戻れば最終的に殺されるとしても、まあおじいちゃんおばあちゃんと呼ばれる年齢まで生きられるのだ。
そしてこちらに残って玉響媛の部下になれば明日にも死ぬかもしれないとは言われたけれど強大な玉響媛の庇護を受ける立場になれば生き残れる可能性はかなり高いはずだ。
というか、単独でこの世界で生き延びる自信が私にはない。
麻巳子さんにはあるんだろうか。
「つまり、今この場で誰の手も取らずにいるというのか?」
「そう言っているように聞こえないかな?」
麻巳子さんはそれはそれは可愛らしく笑う。
「あれはどうする?」
玉響媛が指差した先にいたのは空だった。
食い入るように空は麻巳子さんと玉響媛のやり取りを見ていた。
「もちろん、連れていくよ」
その言葉に空の顔がゆるんだ。
「この世界で生きていく自信があるのか」
「一人では無理、それは正しい、でも私のとる手はもう決まっているの」
麻巳子さんはまず空に向って歩いた。空の手を握って次に月無に向かって歩いて行く。
その時、空間が揺らいだ。
白いものがゆらりと空中に現れる。
「申し訳ありません、閉じ込めておいたはずですのに」
玉響媛の傍の背の高い男が狼狽気味に膝をついた。
空いた空間に立っていたのは、白いずるずるした衣類を着た男。
そしてその腕の中にいたのは。
「夜」
空が叫んだ。
夜も男の手から降りて空と麻巳子さんに向かって走った。




