青金
円さんがさっきまでいたという部屋と違って、私達が最終的に通された部屋は大広間という言葉がふさわしいたたずまいだった。
こちらの土地感覚がどうなっているのかわからないが、個人でこれくらいの大広間を持っているのは、普通の日本では、財閥の当主一族か、天皇陛下といった皇族方くらいだろう。
ただ大広間と言ってもその内装は簡素だ。
壁は白地に黒い枠、それがそもそも飾りなのだろうか。
天井はアーチ型。集中線のように、中心に向かって枠が伸びている。
うちの高校の体育館より確実に広いその最奥に玉座のようにしつらえられた椅子に玉響媛が座っていた。
たぶん実質女王様の謁見という形なんだろう。
椅子はソファセットの長椅子と対の椅子程度の大きさだけど。
「それでは話をしようか」
玉響媛がまず口を開いた。
「まず、お前達、戻りたいなら戻してやってもいい。その力も、人に戻すことは可能だ。
は?
言われた言葉の意味が、脳に沁みわたるまでにしばらくかかった。
今、元に戻すって言ったよね、確かに言った。
「戻すと言っても形だけだ、力を使えないように封じることで人のように暮らすことができるというだけだ。元のように戻れるわけじゃない」
それでも希望を持つ人たちはいたようだ。
食い入るように玉響媛を見ている。
「たとえばどうしてもできないこともある。おそらくお前達は子供を持つことができない
言われた言葉は少々衝撃だった。
まあ、人間やめたという衝撃に比べれば、不妊症はありふれた悲劇だ。
「こっちの生き物と子供を作れる人間は極めて珍しいんだ。そう言う相手を獲得できる可能性は天文学的に低い」
しかし、私達はその天文学的に低い確率を乗り越えて、生まれてきたんだよね。
ということは可能性は零じゃないということよね。
「それと、寿命こっちで決めさせてもらうから、とりあえず、それを選んだ場合、余命五十年ね」
いきなりすごいこと言われたような、寿命を決める? 勝手に?
「こっちの人って寿命はあってないようなものだから、ほっておくと何百年もずるずると生きてしまうんだよね、だから切りのいいところで五十年」
いや、そんな切りのいいってとこで決められても、それに妙に性質の悪い数字だ。
五十年足せば、今の私なら六十代後半。
長寿とは言わないけれど短命でもない微妙な年ごろ。
あとなんて言った、そっちを選ばなければ、何百年?
だとしたら誰もあっちに、普通の暮らしを選ぶ人なんていないんじゃないの?
「まあ、こっちに残った場合、私の部下として使われる立場になるけど、知っての通り敵が多いので、明日にでも死んでしまう可能性もかなりあるな」
だよね、五十年と何百年なら、五十年を選ぶ人はいないけど、何百年か数日かはっきりしないことと、確実な五十年なら、どっちを選ぶかは人によるかな。
「じゃあ、代表として、まずお前が決めろ」
そう指差されたのは麻巳子さんだった。




