青金
月無はただ突っ立っていた。
こちらを見ようともしない。
玉響媛は不機嫌そうに目を細めた。そして隣の男を見る。
「あれが月無か?」
唇がねじ曲がっている。でも玉響媛はあえて月無にそれ以上かまう気はないようだ。
「総員、撤収」
重々しくそう宣言した。
ここにとらわれていた人達はたぶん会場からここまで、一切の記憶がないのだろう。わけがわからない顔をして、自分達が助け出されたという事実すら理解できない顔をしているのががほとんどだった。
それに、これが本当の意味での救助かもわからない。
いつの間にか現れた黒づくめの一団に取り囲まれていた。
ただ同じ黒づくめでも、月無の格好は少々ずるずるしたものだが、他の人は割と身体にそった衣服を着ている。
玉響媛がジャンプスーツと見まごうようなファッションセンスなのでそれに合わせたものだろう。
いいよね、単色、あのけばけばしい色彩の暴力の後にはその単色が、目に快い。
やっぱりこれは水墨画を愛する日本人の感性だろうか。
なんだか月無を拘束するように周囲を取り囲む。
「やっぱりあれは警戒されているんだろうね」
円さんがそう言う。
「月無ってなんだか野次馬のような気がしてたんだけど」
私の正直な気持ちを言えば円さんもうんうんと頷く。
「あ、そう言えば」
いやなことを思い出してしまったと円さんは顔をしかめた。
「あの子、茉莉花ちゃんの弟だわ」
そう言ってひときわ小柄な少年を指差す。
「やっぱり、言わなきゃならないよね」
きょろきょろと周囲を見回している。もしかしたら茉莉花ちゃんを捜しているのかもしれない。
「どうしよう」
信の馬鹿は真っ先に顔をそらした。どの道奴に期待など全くしていない。
「あの、僕が」
洋君がおずおずと手を上げようとした。
「だめよ、この場合、最年長の私が言うわ」
円さんがそう言って、少年に向かって歩いて行く。
私達は、目をそらして、できるだけ直視しないように、それでいて様子をうかがっていた。
切れ切れに聞こえてくるのは、あの子は取り乱したりしないようだということ。
「覚悟を決めていたのか、状況に気持ちがついて行かないだけなのか」
「たぶん、後者だと思う」
洋君がそう言った。
私達も集団に取り囲まれており、いつの間にこんな数の人間?がわいたのか疑問に思いつつ、いきなり視界がずれる他のに気を取られた。
白と黒の配色の合間に、茶や、ベージュの色がちらちらと見える。
日本人には落ち着く色彩の中にいつの間にかいた。