青金
いつの間にかさっき消えたはずの男が玉響媛の傍についていた。
「ああ、今度は私が始末をつけると言っただろう」
髪に飾られたビーズのような丸いもの。それを手に取るとふうっと息を吹きかける。
シャボン玉のようにそれはふわふわと飛んで行き、鴆の身体に当たる。
いきなり、マグネシウムでも焚いたような光が網膜を焼いた。
眩しさに立ちくらみを起こしているうちに、それは跡形もなく消えていた。
目がチカチカする。
ていうか、額の目は瞼がないのか閉じることができない、ダメージが増えただけだ。
とっさに掌でガードしたのか麻巳子さんは平然たるものだ。
ごく自然に佇んでいる麻巳子さんを見て、慣れというものの恐ろしさと思い知った。
ガシャンガシャンとガラスの壊れる音が聞こえてきた。
どうやら、同じようにガラスケースに閉じ込められていた人達も救出されたようだ。
破れたウェディングドレスのまま理津子さんがよろけながら麻巳子さんに飛びついてくる。
「これで終わったんですか」
そう尋ねる声に麻巳子さんは首を横に振った。
洋君と信は何が何だかわからないといったふうであちこちに転がる、人のようでなんだか人と違う遺体を見ないふりをしてこちらに来た。
「青金さん、大丈夫」
「うん、大丈夫」
私は制服だけど、晴れ着を着ていた人達もいる。なまじきれいな服を着ていただけにその破れ千切れた有様は悲惨だった。
「円さんはどうしてたんですか?」
背後の円さんを振り返って尋ねる。
「どうしてたって言われても」
円さんは腕組みして考え込む。
「ちょっと信じてもらえるかわからないんだけど」
そう前置きして円さんは言った。
「鯨くらいの人魚を見たの」
続いたのはシュールな告白だった。
シュールな告白が終わった後に、結構離れてすぐに玉響媛に回収されたらしいとわかった。
鯨ほどの人魚はともかく、私達と離れてすぐ、というより、月無と離れてすぐということではないの?
「そう言えば、月無を見なかった?」
そう、麻巳子さんにぴったりくっついたままの空に尋ねた。
空はきょろきょろと周囲を見回す。
「さっきまではいたよ」
「どうしたんだ?」
洋君と信が怪訝そうに私を見る。
だってタイミングがあやしすぎる。玉響媛は私達を回収するために捜索していたはずなのに、集団行動をとっていた私達を回収し損ね、集団からはぐれた円さんだけを回収した。
見つけやすいなら集団でいた私達のほうだろうに。
まさか月無が妨害していた、そのために私達にくっついていたなんてあるだろうか。
「月無ならあちらに」
そう言ったのは玉響媛につき従っている見知らぬ背の高い男だった。




