青金
びしゃっと濡れた音を立てて足元に何やら気持ちの悪いものがたたきつけられた。
肉の塊に見えるそれに腕がついていた。
生きたまま真っ二つに引き裂かれた。
だって、指がまだぴくぴく動いている。
はたから見れば私は静止したまま痙攣する指を見ていたようだ。
「ちょっと、大丈夫、青金ちゃん」
肩を掴まれて振り替えれば円さんが立っていた。
「え、いつの間に」
円さんはどういうルートでここに立っているんだろう。
円さんの顔をまじまじと見ていると、円さんは私の手を引いて隅に寄せた。
「話は後、さもないととばっちりを食うよ」
何やら、黒い鳥のようなものが血煙りを吹きながら、飛び去っていく。
その飛行ルートの後には、残骸となった死骸が転がっている。
さっき足元に飛んできたのはそれだったようだ。
どうやら、やたらと色とりどりなのがあの鴆とか言うのの仲間で黒っぽいのが玉響媛の仲間らしい。
戦いと言うよりは、一方的な殺戮に見えた。
「なんか思い出すよね」
円さんがしみじみと言う。
「思い出すって」
「ほら、あの会場の惨状」
ああ、そう言えば。会場の職員らしい人たちの死体が散乱していた場所。今の光景は確かにあのときと重なる。
「あの殺戮をやった連中が、今殺されているのよ」
円さんの唇に危険な笑みが浮かんでいる。
背筋が凍りつきそうなくらいの。
「いい気味」
くすくすと笑う。だけど私は笑うどころじゃない。
たとえ加害者だろうが被害者だろうが、殺戮を見て心楽しい気分にはならない。だってグロテスクじゃない。
私がそう言っているうちに、あらかた静かになったようだった。
「さて、これからどうしようかな」
麻巳子さんと玉響媛が並んで鴆を見下ろしていた。
姉妹になり損ねただけあって、二人は姉妹のようによく似ている。
「おしまいだ、それはよくわかっているよね」
肩にかかる長い髪を手ぐしでいじりながら、玉響媛が微笑んだ。
死刑宣告を笑顔で言う。そう言う性格なのか、それともよっぽど不快指数を高くしたのか。おそらくは後者だと思うけど。
人を丑の刻参りの藁人形扱いしてくれたわけだし、助ける義理は全くない。
「まあ、あの一族には愛着は全くないが、だからと言って一応血のつながりのある眷属をああも殺戮してくれたなら、こちらも対応と言うものがあるのだが」
一応親戚だから敵討ちをしなければならないと恐ろしく遠まわしに言っているらしい。
それもあるけれど、私としては人生狂わされたほうも文句を言いたいと思う。
ちらりと、玉響媛が私を見た。
「もしかしてとどめを刺したいのか?」
その気持ちはすごくあるが。やったこととやられたことを考えれば、死んでもらうしかない。なんだかこっちのノリに毒されているような気がする。
「目が辛いからさっさと消えて、そのけばい色彩目ざわりだわ」
これくらいはいいよね、言って。
「ああ、これ、地色だよ」
玉響媛が、あれを指差して言った。
つまりあの悪趣味極まりない色を持って生まれたということ。
まあ、孔雀だって、生まれた時からああいう色だけど。
やばい、心から可哀そうだと思ってしまった。
あんな悪趣味な色に生まれてしまったことに対して。




