青金
麻巳子さんは幽かに笑みを浮かべていた。
「私が、何?」
そう呟いた唇。私は知っているはずの人がわからなくなる。
麻巳子さんのはずだ。
「残念だったねえ」
玉響媛が笑う。
「他の奴らならどうでもできた。私と血の繋がりはあっても、一度も会ったこともない奴らなら、でもネエがいた」
ネエ、もしかしたらお姉ちゃんの縮めた言い方だろうか。
小さいころ麻巳子さんの家に預けられていたならそう言う呼び方も定着するだろう。
「年が、合わない」
切れ切れに呟く。
「成長期が終わりきっていない間だけのはずだ。玉響媛がこちらに来て、二十年以上。もうそれに当てはまるもので玉響媛を直接知っているものはいない」
血を吐くような叫びだった。
「何故だろうね」
麻巳子さんが呟く。
そして背後で、悲鳴が聞こえてきた。
どこか湿ったような音。ぶつぶつぶつっと何かを断ち切るような音が断続的に聞こえてきた。
さっきあの男に言ったんだ、殲滅しろと。それをやっているの?
あれは血肉を引き裂く音、こぼれおちる血潮と臓腑。
軽く吐き気が込み上げてきた。
「どうしたの、青金ちゃん、顔色が悪いよ」
この状況で笑える麻巳子さんのほうがおかしいと思う。
「麻巳子さん、もしかして、慣れてる?」
麻巳子さんはずっと慌てていなかった。
驚いていたけれど、
「そりゃあねえ、実は辺鄙な田舎に引っ越して逼塞して暮らさなきゃならない理由って本当はそれなの」
麻巳子さんはあっさりと答えた。
「ようするに、何代かに一人はそう言う人が生まれる家系なのよ」
爆弾発言が後に続いた。
「この世ならぬ、存在だの超常現象に以上に懐かれる家系って奴、だからこそ、ご先祖様は最初の玉響媛の父親に懐き倒された結果、そういうもんを生んでしまったわけだし」
玉響媛は原因ではなく、結果ですか。
「私が、貴女くらいの頃には、幽霊は普通に見ていたし、そういう存在もたまには遭遇してたし、それで死にはぐったことも一度や二度じゃないし」
実は相当ハードな青春を送っていたらしい。
「やっぱり巻き添えで人死にをあんまり出すのも目覚めが悪いしねえ、だったらそれほど人口密度の高くない所に住んでいれば、死人も減らせるでしょう」
減らせるって、その、出したことあるんですか?
声にならない突っ込みを麻巳子さんは聞いていたようだ。
「まあ、死体が発見されなくて、行方不明扱いになってるのが救いかな、死体を発見されて、警察とか動かれたら冗談じゃないって感じだし」
麻巳子さん本人には救いでもなくなったか方とその遺族には何の救いにもなっていないと思います。




