青金
思わず余興に少々ざわめいたものの、信の一家以外は和やかに、式が進む。
麻巳子さんは軽く額を抑えた。
「どうかした?」
「頭痛がするの」
そう言って眉根をもむ。
空と夜がはじかれたように互いの顔を見合わせてそのまま飛び上り駆けだして、会場から出ていく。
「ちょっと二人ともどうしたの」
会場には窓がない。だから外を見ることができない。だけど無性に私は外を見たいと思った。
そしていきなり周囲が揺れた。
それは地震ではなかった。ただ一度だけの振動。
強いて言えば一番近いのは、至近距離で何かが爆発したような揺れ方だ。
そして全身がむずがゆいような感触。
そう言えば皮膚を食い破る寄生虫がいて、皮膚の下を張っていくともぞもぞとその感触が分かるという嫌な話を思い出した。
まさかと思う、でも思わず二の腕をかきむしった。
視界の端で、華麗な振り袖姿の女性が床に倒れ伏している。
うめき声に振り替えれば麻巳子さんがテーブルに顔を突っ伏して頭を抱えてうめいている。
いや、うめき声は会場のあちこちで聞こえ始めた。
ほとんどが若い相手だ。その親らしい人たちがおろおろと様子をうかがっている。
私は身体じゅうの筋肉がざわざわする嫌な感触に身を震わせている。
「青金、麻巳子さんも」
母さんが立ち上がり私に駆け寄ってきた。そして身体に触れたとたんまるで熱いものに触れたかのようにその手を放した。
「いったい何」
触ってしまった感触を振り払うかのように手を振る。
いや私にもわかる。腕に触れている手の感触が段々変っていく。腕を包んでいた布がはじけ飛んだ。
「なんで?」
私はうめく。なんで私がマッチョにならなきゃいけないわけ?
なだらかなラインだったはずの腕は凹凸の激しいまるでボディビルダーのように筋肉の線が浮き上がって制服の腕の布を弾き飛ばしていた。
「なんで私がマッチョ、筋肉!?」
ありえない、私の身体がなんでこんな短期間でむっきむきになるわけ。
さっきまで感じていたぞわぞわするような、気色の悪い感触は消えていた。だけど、それがこんな風にメタモルフォーゼする感触だったと言うのか?
「嫌だーっ!!」
思わず天を仰いで絶叫した。
「青金ちゃん落ち着いて」
さっきまでうめいていた麻巳子さんの声に振り返る。
「えと、麻巳子さん?」
麻巳子さんって、おでこにタトゥー入ってたっけ、唐草模様っぽいの、おでこにビンディーなんてつけてなかったよね。
「ま、麻巳子さん、おでこ」
震える手で麻巳子さんのおでこを指差す。麻巳子さんの顔を覗き込んだ父さんも絶句していた。
この変化は私達だけではなかったようだ。周りからも同じような悲鳴が響いていた。
ある意味女の子には一番嫌な変身かと。