青金
いきなり視界が開けた。私を閉じ込めていた透明な壁は跡形もなく砕け散りさっきまで気づかなかった人がいきなり立っていた。
空の手を引いて立っている麻巳子さん。
その周囲が、唐草模様っぽいもので覆われているのは何故だろう。
おでこや、腕に浮き上がった麻巳子さんのタトウっぽいものに似ているように見える。
あの妙にけばいのは険しい顔で麻巳子さんを睨んでいるし、麻巳子さんはひょうひょうとした顔で立っている。
そして麻巳子さんの顔を見ていてなんだか違和感を感じた。
顔立ちは確かに麻巳子さんなんだけど、何かがおかしい。
ええと、空が縮んだ以上に麻巳子さんてもしかして若返ってないか?
明らかに麻巳子さん、若い。
「え、ええ」
混乱する私とは裏腹に麻巳子さんは空を従えて不敵に笑っている。
空は表情を引き締めて身構える。ファイテングポーズに似た感じに身体を構えさせた。
臨戦態勢だ。
けばいのは麻巳子さんと空に意識を奪われている。
なら、今だ。
私は一気にスライディングであれの足に突っ込んだ。
思いっきりバランスを崩したあれに、文様の付いた壁が襲いかかった。
麻巳子さんの文様がつくと、麻巳子さんの思うままに操られる存在になるらしい。
グネグネと動く壁や床を座り込んだまま茫然と見ていた。
「青金ちゃん、うまかったわ」
にっこりと麻巳子さんは笑う。
この人、しばらく会わないうちに人間離れが進んだんじゃないか。
自分を棚に上げてそんなことを思った。
しばらく壁や床に襲われていたあれが、反撃を開始した。
ふわふわと舞い散る羽毛。それが軟体動物と化した壁を襲う。
しかしあの壁や床はもともとどういう材質だったんだろう。
文様のない部分を触ってみる。大理石のような感触だ。物質の性質まで変えているんだろうか。
目を爛々と輝かせて空が、もがいて文様のある元壁や床を破壊しているあれを睨んでいる。いつでも襲いかかれるように。
こんな風に変わり果てた息子を見てなんとも思わないんだろうか。
いや、縮んでるのには気付いてるよね、何も言わなかったのかな。
ふわふわした綿毛にあるまじき破壊力で床や壁を破壊する。そして羽毛は麻巳子さんを襲う。
あれ、麻巳子さんの周りの文様がひときわ濃い場所がある。
模様じゃない、もう真っ黒だ。
真っ黒が徐々に周りを侵食していく。
麻巳子さんを中心に真っ黒の周りに文様があるような状態にまでなっていく。
そして羽毛は麻巳子さんに近づくはじからじゅっとまるでスチームにあたった綿菓子のように消滅する。
真っ黒の中心、麻巳子さんの右手あたりに、白いものが見えた。
それは見開かれた両目の白目の部分。




