青金
目の前に亀裂が入った。
そしてほんの数秒小さな子供の姿が見えた。あれは空だ。
亀裂はみるみる修復されて、一度も割れたこともないようにつるつるに戻る。
おかしい、今の私ならたとえ強化ガラスでも簡単に割れるはず。
どうしてここから脱出できない。
気ばかり焦る私に不意に目にも鮮やかな色彩が飛び込んできた。
それはある意味、極楽鳥より派手だった。
そのうえ人間と同じ大きさだった。
うん、極楽鳥って、せいぜい鶏ぐらいの大きさだからわあ綺麗って言われるのね、うん駝鳥サイズだったらただの視界の暴力に他ならないわ。
駝鳥サイズではなかった、形は人の女性の姿をしていたから。
「ああ、どうしたって眠らないのね、お前」
鳥のように丸い目だ。それをペンキかと思うような顔料でくまどっている。
ぞろりと長い爪、人差し指は真っ赤だ。
その横の中指はなぜか真っ青だった。
「そうね、眠っていたほうが幸せなんだけどね」
いや、どっちにしても幸せになれそうにないけど。
なんとなくうちの親戚、吹っ飛ばしてくれた中にあなたの手があったんじゃないの?
そう言う人間に寝ていれば幸せと言われても碌な事じゃないと思う。
拷問死と安楽死の差ぐらいだったりして。
「これから、お前達の力を吸い上げるの、その力で、私はあの女を倒すことができる」
吸い上げられた私達はどうなるわけ。
「ああ、眠りさえすれば楽に死ねたのにね」
ああ、拷問死確定かい。
あの女というのが玉響媛のことだろうと思うけれど。どうして私達の力を吸い上げることが勝因になるんだろう。
適当なのを連れてきて吸い上げれば、それでいいんじゃないの?
いや、そう言う非道を推奨しているわけじゃなくて純粋な疑問なんだけど。
「玉響媛は自らの生み出した家系に取りついて、復活した。お前達は結局玉響媛のなり損ない」
おい、失礼なことを。だれがなり損ないだ。別になりたくないわ。
そう言おうとしたけれど、相手に聞こえてないようだし、相手に聞く気もないようだ。
「それを取り込めば、私は玉響媛を支配下に置くことができる」
言われたことを断片を適当にこね回してみた。不意に思いついたのは丑の刻参りだった。
相手の髪の毛を藁にくるんだ人形に釘を打つ。
呪うには相手の身体の一部が必要で玉響媛になり損ねた私の身体を呪具に見立てて玉響媛を呪う。
つまり私は生きた藁人形ってことか。
ふざけんな。
しかし、相手はけらけらと笑って私が睨んだくらいじゃ動じる気配もない。
よっぽどの恨みつらみがあるのか、それともちょっと目ざわりだと思うだけで、あの程度の残虐は当たり前なのか、そうした区別はつかないけれど、絶対に一矢報いてやる。
ギリと唇を噛みながら私はそう誓った。




