夜
私は鏡の中で、起こることを茫然として見ていた。
取り囲まれたまま反撃すら許されず、全員どこかに送られ、後には何も残っていない。
おそらくそのために取り囲む必要があったのだ。
青金やほかの人たちを連れて行った先にママが捕まっている。そう日無は教えてくれたけれど、なす術もなく連れ去られた人達を見る限り、彼らがママを救助できる可能性は低そうだ。
「あの人達、何が目的なの?」
人と言っていいのか疑問だけど、たぶんひとと同じか同じ異常の知能を持っているらしいのでそう言っておく。
どう考えても碌な運命が一応親戚達を待っているとは思えない。
それは最初のあの会場の惨劇を見れば簡単にわかる。
何よりも問題は、そのろくな運命をたどらないであろう人たちの中にうちのママと兄の空が入っていることだ。
しかし、今私は二人を助けに行くことすらできない。
二人と、できれば青金も助けてあげたいとは思うけれど、私の能力と、そこまで行く移動方法がない。
不意に鏡の景色が変わった。
今度はどこか建物の中だ。捕虜のように連れていかれている。
青金は別の場所にいるんだろうか。
悶々と座り込んだまま鏡を見ている。
「お菓子、食べないのか」
なんとなく、物悲しい声で日無が言った。
いきなり事態が動いた。空が拘束を振り切って走り出したのだ。
何とか取り押さえようとしているようだが。なにしろサイズが小さすぎる。ちょこまかちょこまかと空に合わせて景色が変わる
ふいに視線に入ったもの。
おもちゃ屋の人形のようにガラスケースにおさめられたママ。
だけど、空はそのガラスケースを一瞥もせず、ママの姿は鏡から消えた。
あんなに近くにいたのに、空にはママが見えなかったの?
まずい、じゃあ空は奴らの術中から抜けていない。
冷たい汗が不意に目に入った。目をこする。流れているのは汗だ。涙じゃない。だって二人とももう一度会うんだから。ついでに青金も。
緊張のあまり汗だくになっている。一生懸命顔をこする。
「ああ、いるな」
日無がいつの間にかしゃがんで私の前に顔を突き出した。
日無が指さした黒づくめの男の人。日無そっくりな顔をしたその人を私はしばらく見つめていた。
「月無がいる」
月無は静かに佇んでいた。
おそらくママ達を拘束したと思われる者達を意に介さず。
そして意に介されることもなく。
どうやら今度は反対にあちらの連中が月無の術中にはまっているようだ。
月無はそのままゆっくりと歩き出した。
空と反対の方向に。




