玉響媛
手下どもに他の残党の掃討を任せ、私は戻ってもう一つの潰すべき場所を探った。
おそらくあの親族たちが囚われている場所。
そしてもう一つ考えなければならない。それは月無。
私は知らないが、配下である散は知っていた。
散の話によれば、実力はあるが、基本的に境界の挟間をたむろするだけの存在にすぎないという。
境界の挟間の番人。
そんな役割を持っているらしい。こちらとあちら、無造作に行き来しては両方に災いとなる。どちらかというとこちらに災いになることを恐れているのだろうけれど。
こちらでは必要とされる役目だ。
水鏡に月無を映そうとしても像を結ばない。
月無の傍らにあの元気少年がいたという。
ああ、それと気になることを言っていたな、私は円の顔を思い出す。
あの双子の片割れの少女。何者かに連れ去られたと。
あの馬鹿のところにその少女がいたという知らせはなかった。
私が様子をうかがっていた時に散は見ていたので、見落とすはずもない。
すでに手勢を送ってつぶさせたほかの雑魚のところにもいなかった。
つまりこちらの想定外の場所から横やりが入ったのだ。
すべてを見透かすとは言わないけれど、想定外だ。
いらいらと後ろ頭をかきむしる。
長い髪がもつれた。
昔、ショートカットだったときはこんなことなかったのに。
なんだかいらいらする。忘れていたあのころに立ち戻ったみたいで。
もつれた髪を手ぐしで整え、私は、待たせていた円のいる場所に向かった。
円は与えられた部屋でおとなしく待っていた。
まあ、出ようにも出られないようにしてはあったけれど。
「片付けてきたわ」
備え付けのスツールに座って、円は私を見上げる。
「わかりにくいようで、わかりやすい世界よね」
そう斜に構えた風に言うと目を背ける。
「弱肉強食、これがこの世界の法律って感じだわ」
否定はしない、弱い者にはいきにくい世界だ。だからこういうややこしいことになったわけで」
「そう言えば、珠魂という人魚を知っている?」
珠魂? あれは生き物というより、私は現象としてとらえている。似たようなものに、円蛇媛王というモノもいる。珠魂と違って下半身は蛇だ。
「あれは、オーロラか、ま、運が悪ければ嵐みたいなものだと思う。見たことはあるけれど何をするというものでもないし」
「テレパシーってやつ? 話しかけてきたわ」
珠魂と会話が成立した。それがどれほど珍しいことか、目の前の女は分かっていない。
「挟間の子は選ぶときはまだ来てない、どういうことだと思う?」
ありゃ、なんか引っ掛かることを聞いた。
「心当たりはあるが、でもそれを教えてあげるのは、最後のけりをつけてからだね」
そう、それが終わらなければどうしようもない。




