青金
「円さん」
さっきまでのぞいていた緑は、瞬く間に消えた。
「放っておけ」
月無が言い放つ。
もう手も足も出ない私達はそうするしかない。
「円さん、どうしたんだろう」
洋君が、円さんの消えたあたりを見ながら言った。
「結局あいつは一人だけたすかりゃいいと思ったんだよ」
信が吐き捨てるように言った。
一人だけ助かればいい、それが非難すべき考え方なのか、今では私には判断できない。
「空、まず、麻巳子さんを探すべきだよね、どれだけできるかわからないけれど」
そう言って私は額に、念を込めた。
これはこの場所以外を見る目、可能性はこれしかない。
理津子さんみたいにしっかりと目になっていないけれど。それでも使えるかもしれない。
意識を凝らす、そして麻巳子さんの顔を思い出した。
よく似てる、と姉妹に間違えられたこと。子供のころ手を引いて遊びに連れて行ってもらったことなど、取り留めのないことを思い出していた。
そして、麻巳子さんが、夜と、空を産むといいだした大騒ぎ。
恋人の影なんか全くなかったのに、いきなり妊娠宣言、そして産むと言い張って、どうしても聞かなかった。
そのうえ、父親の名前も正体も一切口にしなかった。
ああ、取り留めのないことばかり思い出す。
想定外の双子に、麻巳子さんのご両親の顔はますますしぶくなったけれど、麻巳子さんはどこ吹く風で、今住んでいる家に三人でさっさと引っ越した。
どんな時も泣いた顔なんて一度も見たことがない。いつだってどんなしゃれにならない状況でも、取り乱した姿なんて見たことのない人だった。
でもこんなこと思い出してなんの役に立つんだろう。
不意に見えた。
水晶の壁。それしか見えない。
水晶の壁に阻まれている。
「ええと、水晶の壁ってなんだろうね」
言ってみたところ怪訝な顔をされてしまった。
「麻巳子さんのいるところを探してみたのよ、なのに、出てきたのは、水晶の壁だけだったの」
「建物、かな」
空が呟く。
「水晶の壁のある建物があって、ママはその中にいるとか?」
「で、言いにくいんだけど、それがどこにあるかは全く浮かばなかったの」
冷や汗を流しながら、私はそう言った。
「だいたい、そいつの言っていることがどれほど当てになるかもわかったもんじゃないからな」
信が憎々しげに言う。
どうしてこいつはこうなんだろう。こいつが建設的な行動をとったのを見たことがない。
「じゃあ、棒でも倒す? それとも、ママを捕まえた連中が来たら、返り討ちにして、拷問して吐かせる?」
空は無邪気な顔をしてそんなことを言う。こんな子だったっけ?




