円 まどか
円さん視点です。
私は、ごく太い枝の上に着地した。
下を見るが絡み合う緑で何も見えない。
どっかのジャングルにあるという。樹冠という奴だろうか。
私は頭上を見上げた。
もはや抜けてきた穴は見えない。一方通行というわけだ。
私に続くものは誰もいなかった。まあ推定の範囲内。
顔にかかる長い髪をかき上げた。
うっとうしい。あの子のように短く切っておけばよかった。
長く延びた爪、まるで刃のように敵を切り裂く爪、私の髪も切れるだろう。
それでも、私は髪を切るのをやめた。
切った髪をここに残しておくのは不安。髪は呪術の道具になる。
そんな迷信が脳裏をよぎる。だけどここではそれが本当に迷信じゃないのか確信が持てない。
我ながら無謀なことをしていると思うが、私なりに考えがある。
私は月無から離れたかった。
あの男はいったい何を考えて私達にくっついているんだ。
ハッキリ言って不気味だった。
あの男はぴったりと私達に張り付いた傍観者だった。
いっそ敵方の襲撃者のほうがましだと思う。
何が目的なのかはっきりしない、これほど不気味なものはないと思っている。
敵ではないかもしれない。敵なら、私達を油断させようとして、むしろ好意的な行動をとる可能性が高い。
それも私の人間を基本とした考え方なのだろうけれど。
それに、もう一つさっきの信の言葉が、言われた本人より、心に突き刺さった。
『人の顔をしていない』
それはついさっき、何より私自身も感じたことだ。
ついさっきまで目の前にいた元彼の姿が少しずつ消えて、不意に見えたのは、黒いシルエットの喉笛をつかんだ青金の姿だった。
状況は読めないもののそちらを凝視していると。青金はそのまま力を込める。
黒いシルエットが死に物狂いに暴れるのが見えたが。青金はまるで意に介さずその手を緩めない。
シルエットが少しずつ崩れている。いや、それは青金に食われているとなぜか感じ取れた。
そして感じる、食らっている青金の愉悦。
ああ、これは人間をやめていると私自身思った。
いや、空という子供と再会した時も思ったことだ。
これはもう人じゃないと。
たぶん、人ならざる力とやらが見のうちに巣食っている。
その力は肉体だけでなく精神も変容させてしまうのだろう。
それも仕方がないが、もしかしたら、このからだのままなら、人の心など捨てたほうが楽かもしれないとも思うけれど、そうなるのが怖い。
友達に見えたけど殺しちゃった。あっけらかんとした口調が余計に怖かった。
この力を使えば使うほど。たぶん一番率先して使っていたのはあの青金だった。
私もそうなるのだろうと思ったけれど、それはできる限り後回しにしたかった。
たぶん、あの場所にいた親族すら信じきれず私はここに逃げたのだろう。
一緒にいるのも一人になるのも怖い。だけど私は一人を選んだ。




