青金
月無が、なにやらごみ袋のようなものを拾い上げた。
「なに、それ?」
「お前の食いかすだ」
そう言ってしばらくそれを掲げて見ていたが、ぽいっと捨てた。
「これ一匹で、全員をからめ取ろうとはな」
それはひらひらとまるでぼろけたごみ袋のように風に飛ばされて飛んで行った。
「あれで全員に幻覚を見せていたわけか」
それで表装しか心を読めなかったわけだ。
私の心に浮かんだのがすでに死人だとわからなかったのもそのせいだ。
「残骸だ、半殺し程度に済ませなかったのか?」
そう言われても、自覚してやったわけじゃないし、それにあれで手加減手どうやればいいんだろう。
そう思いながら、自分の手を見る。さっきまで伸びていた鈎爪はいつの間にか引っ込んでいた。
食べている。その実感を掌から感じた。
美味しいもまずいもない。ただ力を吸い上げているという感覚。
たぶん、今ちょっと満腹な気がする。
胃の中は空っぽだけど。
「もう嫌だよ、どうしてこんなことになっちまったんだ」
何もしないのに、泣き言を言っている馬鹿がいる。
信はその場に座り込んで泣き喚いた。
「うるさいよ、まったく」
そう言った私に向かって信はさらに言いつのる。
「ああ、お前はいいよな、もう完全に人じゃないんだから、もう身体だけじゃない、中身まで人を辞めちまったんだから」
思わず無言になる。
「俺は嫌だ、俺は人間らしい心を失いたくない」
人間らしい心って何?
というか普段のお前が人間らしいと言ったら、世間一般の善良な市民の皆さんに袋叩きにあうと思うけど。
「冗談じゃねえ、化け物になってたまるか」
いや、もう見た目だけならあんたは立派な化け物だけど。
そう突っ込もうとした時、洋君がなんとかなだめようとした。
しかしそんな洋君に信の馬鹿はからみだした。
「うぜーんだよ偽善者。へらへらしやがって、ああそうだよな、そうやっていいこぶってりゃいいんだ、お気楽野郎」
これ以上しゃべらせても空気の無駄だ。気絶させてその辺に捨てて行こうかな。
そう思った私は、軽く拳をに魏に擬しながら信に近づく。
私が振りかぶるより前に信は吹っ飛んだ。
何事?
信の脇腹に思いっきり回し蹴りを決めた洋君は、信の襟首をつかんで持ち上げる。
「ふざけんなよ、何お前一人だけ被害者ぶってるんだ」
がくがくと揺さぶりながら洋君は続ける。
「お気楽野郎だと、お前のほうがよっぽどお気楽だろ、ただ自堕落に生きてるだけじゃねえか」
ぎりぎりと喉笛を圧迫する。その手に尋常じゃない力がかかっているのが私にもわかった。
「とめたほうがいいかな?」
円さんも、手を出しかねている。
信がやられてるのは本当にいい気味だけど、洋君後で自己嫌悪で傷つきそうよね。
「お前に何が分かる。俺は俺は大事な夢を奪われたんだ。ずっと努力してきたのに、なんで何もしないお前がそんなに文句が言えるんだよ」
信の身体を持ち上げて、思いっきり地面にたたきつける。
夢ってなんだろう。
そんなことを思いながら私は後ろから洋君を羽交い絞めにした。




