青金
いい加減にしろよ。
私は血に染まった手を振って流れる血を振り払った。
粘り気のある血が腕から飛んだが、さして手はきれいになっていない。
服でぬぐおうにも、すでに返り血でずくずくになっている。
さっきの魚と違って今度は鳥だった。
群れをなして襲ってきた。
月無は全くの無傷。というか完全に無視されていた。
「なんであんたはノーマークなの?」
「ある程度の力の持ち主相手にそうそう襲ってくる愚かな者はいない」
つまり私達の実力派、月無の足元にも及ばないということか。
忌々しいと舌打ちする。
さっきの魚で経験値を挙げたせいか、それともさっきの魚より弱かったのかさっきより苦戦せずに済んだ。
負傷者も出していない。
血で染まった指先をなめた。
苦いはずの血がどこか甘いと思った。
もう一度と舌を伸ばした瞬間我に返る。
私はいったい何をしようとしていた?
カナリヤのようなきれいな色の羽が飛び散っている。
でもその羽根は半分が血とはらわたの混濁色で汚れている。
それに思わず喉を鳴らした。
本来なら吐き気を催すはずのそれを見て、私はどこか高揚するものを感じた。
「青金ちゃん、どうしたの?」
円さんが私の肩を叩く。
伸びた爪が私の頬をかすった。
この爪がどれほど危ないか熟知している私としては、少々ひやりとするが、円さんは気にした風もない。
もともとは淡い色合いの襦袢は見る影もない。
「ちょっと、気持ち悪くなって」
そう言ってごまかす。
すでに乾き始めた血がパリパリと音を立てる。
水、ないかな、でもあったとしても水の中には大蛇とかいそうだな。だいたい空中を魚が泳ぐような非常識な世界で、まともな水が手に入るだろうか。
周囲を見回す。先ほどの白一色の世界から、空が見えた。
そして島が浮いている。
ラピュタかよ。
信はたぶん精根尽きはてたように座り込んでいる。
だけど油断などできる状態じゃない。か弱い私達はこういう奴らの絶好のかもらしから。
「いつまで続くんだ」
洋君がつかれたような顔でつぶやく。
「移動するわよ、血のにおいをかぎつけて何が来るかわからない」
円さんがそう言った。だけど、どこに?




