夜
青金と空の様子しか見ることができない。
ママはどこにいるのか日無にどんなに聞いても答えてもらえない。
テーブルと椅子しかない殺風景な部屋、できることと言えば鏡を見つめることだけ。
退屈。
「だったらそこの菓子でもつまんでいろ」
ふてくされている私に、日無はテーブルの上を指差す。
お菓子でつられるほど、子供じゃないんだから。
そう言おうかと思ったけれど、今の見た目では説得力は全くない。
たった数秒で縮んでしまったこの身体。
数年分の成長がぱあというのはちょっと堪える。
「日無、もうここにいるの飽きた」
そう口を尖らせる。
たぶん勝てる相手ではない。少しわがままは、様子見だ。
そう言えば、一人、死んだな。
親戚といってもほとんど、顔も合わせたこともない相手なので、さして心は痛まない。
これが青金なら少し慌てるけど。
それでもお菓子に手を伸ばす気にはならない。
日無が味方だと確信していないから。
「つまんない。つまんない」
椅子の上で足をばたつかせる。
小さいころ空がよくママをそうやって困らせていた。
現在進行形で今もそのサイズだけど。
「ねえ、玉響媛ってどんな顔?」
とりあえず、情報収集だ。
うまくいけば、玉響媛の今の状況を知ることができるかもしれない。
玉響媛と言う名前だけじゃなんとなくイメージがわかない。
「今の姿を見せることはできないな、あれでもまあ、それなりの実力者だ。自分の周囲を気取られないようにするくらいのことはできる」
つまり玉響媛の様子を探ることはできないと言っている。
「過去に見た光景を映し出すことはできるが」
うん、贅沢は言えないよね、それに本気でここにいるのに飽きてるし。
別の鏡に、少し小さく若い女の姿が浮かび上がった。
着ているのは肩のところでぶった切られた真っ黒なライダースーツっぽい服。
小ぶりな石のアクセサリーが手首や首に飾られている。
なんとなくその色合いはママの好み泣きがした。
そして、腰まで届く長い髪。
真っ黒な中で縁取られた顔は、丸くて色白。そして、どこかママに似ていた。
当然と言えば当然だけど、だってもともとママの親戚なんだから。
ママと似ていて、そして青金とも少し似ている。でも違う人間の顔。
ママの妹になるはずだった女と同一人物らしい。
ママはそのことを気にしていたけど、私にとってはどうでもいい。
大事なのはママだけ。
青金は嫌いじゃない。だから無事だといいなと思う。
空はまあ大丈夫だと信じている。
そして今確実に断言できる。
玉響媛なんかどうでもいい。ママさえ見つかればずっとどうでもいい。




