青金
茉莉花ちゃんと同じように一人片腕を食いちぎられた子がいた。
隆俊君、あまりにも存在感がなくてほとんど忘れていた。
うずくまっている隆俊君をどうしたものかと全員で取り囲んで思案していた。
肩の肉が盛り上がった。血の糸を引きながら筋繊維が主るしゅると伸びていく。それに付随して、白い骨も伸びていくのが見えた。
伸びたままそれは腕ほどの長さになり、先端が指の形に分かれた。
赤い肉に脂肪がまとわりつきみるみる薄く皮膚が張っていく。
隆俊君は再生した腕をぼんやりとみていた。
脇で見ていた私達ですら、信じられない。ましてや自分自身のこととしても信じられないだろう。
むしろさっきまで腕がなかったことこそが嘘のようだ。
「ここに傷があったんだ」
隆俊君は手の甲を撫でる。
「小学校の頃、工作していて切ったんだ、その傷がない。やっぱり夢じゃないんだな」
その声は夢を見ているように虚ろだった。
「もう、俺人間じゃないや」
泣きそうにその顔は引き歪んでいた。
円さんは茉莉花ちゃんの袂を握りしめたまま呟いた。
「ねえ、私、ぶん殴ってやりたいの」
「誰を?」
「玉響媛」
円さんはそう答えて、前方を見る。
そこにあるのは柱だけだったけれど。
「諸悪の根源でしょう。だから絶対ぶん殴ってやる」
円さんはそう宣言した。
信と洋君は、うずくまる隆俊君をどこか感情のない目で見降ろしている。
もう私達は人間じゃないのかもしれない。
ずっと認めたくなかった言葉が、胸に刺さった。
「ここで生きていくしかなくて、生きていけないならさっさと死ね、あんたはそう言いたいの」
月無にそう尋ねれば、不思議そうな顔で私を見返した。
「どうしてそんな当たり前のことをわざわざ言わねばならないのだ?」
腹の奥で笑いがこみ上げた。
当たり前、なんだ。たぶん、日が昇って日が沈むくらいこの世界では。
だから、戦えない茉莉花ちゃんが魚のえさになったのも当たり前、この後すぐ私が茉莉花ちゃんと同じ目にあっても、それも当たり前なんだろう。
こんな姿になって家にも帰れない。この世界で生きていくにしろ、次の瞬間までの命の保証はない。
ああ、短い一生だった。
乾いた苦笑が唇から洩れる。
茉莉花ちゃんを悼むどころの騒ぎじゃない。
今日中に死ぬ可能性はかなり高い気がした。
円さん、玉響媛をぼこるどころじゃないよ。自分の命が危ないよ。




