青金
月無はすっと指をのばして先を示す。
「自力で切りぬけろ」
その表情はまったく変わらない。私は、その指差す方向に目をこらした。
「うげえ」
信の情けない悲鳴が間抜けに流れた。
さっき空の言っていた、巨大な、人間をまっぷったつに食いちぎる深海魚っぽい物の群れがこちらに押し寄せてくる。
「自力で切りぬけろ?」
そう呟く円さんの顔が微妙にひきつっている。
確かに、誰かをかばう余地があるとは思えない。量が多すぎる。
さっきのサンショウウオとはケタ違いに危険なのは、不揃いな乱杭歯という細長い、刺身包丁より長い牙がずらりと並んだ口で明らかだ。
さっきのグッピーもどきのように泳いでいる。
サイズは、空が言っていたより大きいんじゃないだろうか。
二つに食いちぎらなくても私なら丸のみにできそうだ。
そんなことを考えながら、私は身構えて、相手を凝視する。
その魚体は、堅そうな鱗で覆われている。
どのくらいの強度だろうか。それと、普通に弱点といったなら、やはりあの丸い目玉だけど、どう狙ったものだろうか。
近づいてくるその先頭を見つめて間合いを測る。
空も、爛々と光る瞳で、相手を見つめている。
尖った牙がのぞく唇。その唇はかすかに笑みを刻んでいる。
そう言えば、空はあの化け物たちを何体も葬り去っている。
「茉莉花ちゃん、できるだけ後ろにいてもいいけど、危なくなっても助けてあげる自信はないから、頑張れるところは頑張って」
私は、後ろを見ずにそう言った。
なんだかやけに大きく、喉の鳴る音が聞こえた気がした。
結局幸先よく、私は丸い目玉を抉り出すことができた。
片目をつぶされた魚は、のたうちまわってますます幸先よく別の魚に体当たりをぶちかました。
ぺろりと唇をなめる。
血に濡れた手を振り払い、別の魚に取りつこうとする。
空は最初から楽勝モードだった。
魚の背中に取りつくと、硬いうろこをものともせず内側のやわらかい肉を切り裂いていく。
まるで鯛の尾頭付きに取りついた仔猫のように見えた。
尖った牙はまるで食らいつきそうに見える。
弱点である、目玉は確かめた。ならば私の拳が、硬い鱗にどれだけ通じるだろうか。
大口を開けて、突っ込んできたのを身軽くかわす。
まるで暴走するトラックを危ういところで裂けたような感じがした。
そこに思いっきり拳をたたきこむ。
鱗がひしゃげて、中の肉にめり込んだ感触がした。
どきどきと胸が高鳴る。
もう一度、拳をめり込ませた。鱗が裂けて鮮血が吹き出す。
赤い血が、私の身体に降りかかった。




