青金
玉響媛は二十年前に生まれたということはことし二十歳ってことだろうか。
「生まれたといっても、それは眷属として目覚めた年だ」
月無はそう教えてくれた。
「ということはそれまでに十何歳かになっていたってことよね」
二十年前に十数歳で、今現在行方不明。心当たりはたった一人だ。
二十年ほど前に行方不明になったという麻巳子さんの従姉、不破優花。
天井いっぱいの巨大な女の顔。あれは間違いなく優花だと麻巳子さんは言っていた。
だからそれ以外の結論はない。
そして気がついた。
もし不破優花が玉響媛であるならば、被害者と加害者はきれいに入れ替わる。
もし彼が、憑り付いた玉響媛に操られるままに子供を作ったとしたら、そして子供ができた途端、暗示みたいなものが解けたとしたら。
我に帰った時、その状況を彼はどう思っただろう。
だから逃げたんだろうか。
いつの間にか自分の望まない方向に進んでしまった事態から。
「玉響媛だか、金玉姫だか知らないが、その女どこにいる?」
信がそう言った。形容が下品だ。
さすがに咳払いして洋君がたしなめた。
「さて、どこにいるやら、言っておくがお前達の言う物理的距離とやらは我々には関係ない。国一つ隔てたほどの距離でも無に帰すこともできる。力ある輩に限ってだがな」
「なんだよ、それ?」
「いずれ玉響媛の方から接触を試みるだろう」
確信をもった口調に帰って不審を感じる。
「より、多くの眷属を従えたものがあちら側で、まあ大きな顔ができるということだ。もしお前達を取り込むことができたとすれば、玉響媛の手持ちが大きくなるということ、それゆえ、玉響媛は確実にお前達に接触してくる」
月無の説明を聞いているうちに、なんとなく連想してしまった単語。しかしそれを口にすればなんとなく神秘性が薄れる。
「ヤクザの境界争い見たいなもの?」
茉莉花ちゃんが呟いた。
まあ、私もそう思ったけれど、はっきり言われても私は困る。
「身も蓋もないけど、そんな感じなんでしょうね」
円さんが苦笑した。
「でもさ、他の人というか、ママを連れて言った連中に心当たりがあるの?」
月無の話が本当なら、先ほど会場で消えた人たち、茉莉花ちゃんの兄弟や、麻巳子さんは命には別条ないということになる。
どこかに捕まって、監禁されているということだけど。
死んでいるよりいい。そう思うことにした。
ふと気付く、歩いている場所が違う。
さっきまでの会場の建物ではなくて、まるで新品のパルテノン神殿。
巨大な柱が、立ち並ぶ、真っ白な回廊。
「ここはどこ?」
そして気付く、ここはあちら側だ。
私達は、境界線を抜けて人の世界からあちら側に来てしまった。




