夜
私はママの隣に座って傍らの兄と、共にこれから主役のやってくる空っぽの席を見詰めていた。
ピンクのリボンに飾られた席がこの催しの意味を語っている。
同じテーブルに青金が座っている。
私は母の話を聞くともなしに聞いていた。
傍の兄はいつご馳走を食べていいのかそれだけを気にしているようだ。
呼ばれた理由を尋ねれば、食べるためと真顔で答えるだろう。
まあ、いい、いつものことだ。
基本的にはママは親戚にかかわろうとしない。それも無理はない。私達の父親の名前も知らせずも写真も見せることができなかったのだ。
それでも比較的親しくしているのが歳の離れた従妹、青金だ。
なんでも父親が鉱物マニアで、青金石から名前を取ったらしい。
金という字が入っているためしょっちゅう名前を名字に間違えられると、愚痴っていた。
どうせなら瑠璃とつければよかったのに。
まあ、漢字が難しいので、中学生まで自分の字が書けないという弊害があるかもと、かつて訪ねてきた彼女の父が言っていた。
母と付き合いがあるのは親戚ではあの一家だけだ。実の祖父母はめったに顔を出さない。そう言えば、あちらでこっちをちらちらとみているのがその祖父母だった。
軽快な音楽とともに、扉が開き、純白の晴れ着姿の新郎新婦が入場してきた。
適当に拍手して迎える。
ここにいる人間で、家族以外わかるのは青金とその両親だけ、後は特に知り合ったわけでもない。
それにしても不思議だ、こんな催しに呼ばれたのは今回が初めてだ。普段は呼ばれないかママだけが行くことになっている。
ママは私達をかばうように、あまり親戚にかかわらせようとしない。
理由は分かっているだけに今夏の行動は不思議だ。
「夜。さっきの話、聞いていたわね」
「ほら、あれ、」
そう言って隅っこの席を指差す。
「あちらにいるのが、優花の父親」
ママの叔父、私には大叔父に当る人だという。
確かに、母が幼いころの話とは言え、あれだけのことをしでかした人間がのうのうと出席しているのだ。母がいても肩身は狭くないだろう。