日無と月無の語ったこと
玉響媛が最初に生まれたのは、人間の世界の暦で約千年の昔のこと。
ごく稀に起きる、人と、眷属の混血によって生まれた。
その千年前、玉響媛は、極めて虚弱な存在だった。
我々眷属にとって弱いということはそれだけで致命的だ。なぜなら、われらは戦いを好み、死とは殺されると同意義だからだ。
つまり弱いままこちら側に来ても生き延びることはできない。かといってこの世で人のまま生き朽ちることも選ばなかった。
あるいは、それを望んだのは、玉響媛の父であった眷属かもしれないが。
それは強大な力を持ち、それゆえに不滅といわれていた。
玉響媛は子をなした。その血脈に憑りついた。
子供は子を産みその血脈を増やしていった。そしてある程度まで増えた後、その血脈の数を減らしていった。
交配という形で。
玉響媛の血を引いた者同士で繁殖し、より血を濃くしていく。
それは少々遠い血族から始めて徐々に近い血族へと婚姻を繰り返した。
それを繰り返した果てに再び玉響媛は生まれた。
それが二十年ほど前のことだ。
玉響媛は前の玉響媛と違い強大な力を持っていた。その力によりたった二十年で自らの主権となる組織を作り上げ今に至る。
その力はかつての玉響媛の父であった眷属にも迫るものだろう。
そしてその血脈に近しいほど、目覚めれば強大な眷属。お前達の言う魔物に代わるものが多いといわれている。
しかし大半は人のまま生きているだけだ。
きっかけを与えられないままならばそのまま人として朽ちるだろう。
ただし、きっかけさえあれば。
人間は親族の集まりということが何度かある。葬式や、婚礼。
そう言った集まりに、その血の濃い者達が集まる。
そこできっかけを与えれば。
そう考えた輩ば、行動を起こした、この夜に狙いを定めて。




