青金
私は背後の男を振り返る。
「あんたいったい誰よ」
一部始終を見ていた男は無言だ。
胡散臭そうな視線を信は向けた。
空は黙って、その人?を見上げた。
「言ったほうがいいよ」
空がそう促すとようやく口を開いた。
「月無、そう呼べ」
とりあえず呼び名は分かったけれど、どうしてこんな場所にいるのか、それとも何者なのかはさっぱりわからない。
「今、何が起きているのか教えてほしいの」
月無は気のない顔で尋ねた。
「うすうす感づいているのではないか?」
何を感づいているというのだろう。
たぶん、空想上の生き物だと思っていた妖怪みたいなものに襲われて、自分自身もなんだかわけのわからないものになりそうになっている。それはわかっている。
私がわからないのはどうしてそうなったかだ。
そしてこれからどうなるのか、わからないことだらけだ。
「あんたは妖怪なの?」
月無はにんまりと笑う。
ふいに手を伸ばすいつの間にかその手の中には一匹のネズミ。
「たとえば、この生き物をお前達はネズミと呼ぶ。だがこの生き物はお前たちがネズミと呼んでいたとしてもそんなことはどうでもいい」
そしてネズミを放り出した。
あちこちに積んである荷物は、小麦粉や塩、あっちには缶詰の類が積み上げられどうやら食料品を保管する場所らしい。
そんな場所にネズミがいるなんてここは余り衛生に気を使っていないのだろうか。
なんとなくさっきまでのきらびやかなご馳走が胸に詰まる気がした。
「だから妖怪や魔物といった呼び名で呼ばれているものの中には我らの眷属がいるかもしれないと言うにとどめておこう」
「あんた達はどこから来たの?」
「さあ、自分達のいたところもよくわからない。時たま場がつながるのだ。たいていは偶発的にだがな」
「今回は違うと」
洋君が口をはさむ。
「そうだ、今回は力ある眷属がこの場を作り上げた、相当な力の持ち主だ、この規模の建物すべてを場に引き込むとは」
「あんたより強いのか?」
信がせせら笑う。さっきまでの醜態は忘れたようだ。
「強い、純粋な力ではたぶん勝てない」
月無はなんの気負いもなく信のあざけりを受け流す。
「それに、そんな風でいいのか? その力の持ち主に狙われているのはお前達自身だ」
だからどうしてそうなったのかが聞きたいのだけど。
「どうして?」
「それはお前達が玉響媛の眷属だからだ」
誰だそれは。




