夜
一反木綿、あまりにのどかな名前に、一瞬脱力した。
のんきだ、空。
しかし、あんまりのんきにしていられないんじゃないかな、だってママが行方不明だって言うし。
ママはなんだかわけのわからない光に包まれていなくなったと言っていた。
ああ、さっきまで聞いていた日無のたわごとなんかどうでもいい。
「あの、あっちに連れて行って」
日無はかぶりを振る。
「しばらくはここで見ているだけだ」
さっきまで聞いていた日無の話。それが本当ならママは死んだわけではないようだけど。それでも得体のしれない奴につかまっているなら助けなければ。
そう訴えてみたけれど、日無は一向にかなえてくれない。
「それはあっちに任せておけ」
そう言ってそのまま再び黙り込んだ。
焦れたように鏡を覗き込む。
「ねえ、ママがどこにいるか映せないの」
「あいにくと、ずいぶん力を入れて閉ざしている。力足らずですまないな」
なんとなくその言葉が棒読みに聞こえる。
「まあ、青金と合流できたのは良かったけど」
基本的にママ以外の人間とあまり親しく付き合ったことが私たち兄弟にはない。例外が青金だ。
青金がいれば空は少し落ち着いてくれる?
言っていて疑問だらけだ。基本、私達は家族以外を信用していない。
「これでも食べて落ち着きなさい」
テーブルの上に乗っていたお菓子を日無はさしだしてくる。
今考えなければいけないことは、もしかして日無が何を考えているかだろうか。
ここに無理やり連れてきて、何の目的もないなんてありえない。
私は、鏡と日無を交互に見た。
鏡の向こうでは、空と青金が話している。
その傍らにさっき私をいじめた男がいるのに気がついた。
少し様子が変わっているけど奴に間違いがない。
あいつこそ消えてしまえばよかったのに。




