青金
真っ暗だった場所が、いきなり明るくなった。
急激な明暗の差に、少々めまいがする。
なぜ急に明るくなったのか周囲を見回せば、そこには茉莉花ちゃんとさっきの不審人物が立っていた。
何かをくれというような形に右手を差し出し、その右手の上に青白い炎が燃えていた。急に明るくなったのはその炎のせいらしい。
そしてうずくまる子供。というには余りに異様な有様なものを見詰めた。
ぼろぼろになった衣服。そして金色に変色した目。がちがちなる鈎爪。引き歪んだ唇からのぞく牙。
だけどどこかで見覚えがある。
「なんだお前」
ふいにそれが言葉を発した。かすれているけれど聞き覚えのある声。
「まさか、空?」
変わり果てた姿になった空を私は呆然として見ていた。
いや、今の私達も十分変わり果てた姿になっているが、たぶん空のほうもわけがわからなくなっているだろうな。
空はうずくまった体勢からゆっくりと立ち上がる。
身長が低い。頭一つ分小さくなっている。
「何があったの?」
「青金?」
怪訝そうな顔だ。まあ、無理もないけど。
「空だけ、夜はどうしたの?」
そう言った途端空の顔がくしゃくしゃに歪んだ。
「夜いなくなっちゃった」
そう言って顔をこすろうとするのを慌てて私は止めた。
その鈎爪の衝立でうっかり普段するようにぐしぐしと顔をこすったりしたら下手すれば目玉をくりぬいてしまうかもしれないと思ったから。
「夜がいなくなったってどういうこと?」
空は妙な生き物に追い回されてめくらめっぽう二人で逃げているうちに、玄関までたどりついたこと、しかし、窓を開けてもなんだかわけのわからないものに遮られて、手を出すこともかなわなかったため、果たして外に出られるか迷ってそこに立ちすくんでいたと言った。
「よくわからないけど、白い布みたいなものが、いきなり出てきたんだ。まるで一反木綿みたいだった」
お子様アニメに出てくる妖怪の名前をここで言う。
「それで、とっさに飛びのいたんだけど、別の一反木綿に夜が絡まれてて、そのまま消えたんだ」
一反木綿で定着してしまった。
「で、夜を探そうとしたのに、こいつらが邪魔をして」
ギリっと空が唇をかむ。
「それでこうなったと」
死屍累々そんな言葉が脳裏によぎる。
「それでどうしたの、それ」
シシャモが生息するようになった私のふくらはぎやなだらかな線が消滅した二の腕をじろじろと見ながら空が聞いた。
「よくわからないの、空と夜が出て行った直後にいきなり身体が変形を始めて」
「あの会場を出た直後だったよ、僕達もこうなった」
空が言う。
「ねえ、ママは?」
言われて詰まる。
夜がいなくなったと錯乱して屍山血河を築いてしまう空に、麻巳子さんが消息不明でどうしようと思っていたなどと口が裂けても言えない気がする。
しかし言わないとならないだろう。
冷や汗が滝のように流れるのを感じながら処刑台に上る気持ちで私は告白した。




