夜
たぶん、ホテルの一室ではない。奇妙なそれでいて普通の家具。
テーブルの上にたぶんお菓子とお茶が出されている。
さっきまでいた場所とは段違いだ。
目の前のお菓子は柔らかな卵色のマーラーカオのように見える。おいしそうだが手をつける気にはなれない。
日無が目の前で笑っている。
「あちらが気になるか?」
そう指差した場所は、ちょっとした窓ほどの大きさの姿見がある。
しかし、そこに映っているのは、指をさす日無ではなくさっきの会場だ。
その会場は嵐のあとのような惨状だった。
壊れてひっくり返ったテーブル。罅の入った壁。さっきまでのきらびやかな装飾の残骸が床に散らばっているのがわびしい。
それにあちこちに倒れている人は、息をしているんだろうか。
そこに集う異形の者たち、それにどこか見覚えのあるのは何故だろうか。
よく眼を凝らす。それが、気のせいではなく見覚えのある人達だったことに気がついた。
「あれはいったい?」
明らかに手足がごつごつになって、額に妙なものまでついてるけれど、顔立ちは間違いない青金だ。
そして、その後ろに立っているのは、先ほど夜にからんだ信と呼ばれていた高校生だ。
しかし、敗れた制服からのぞく肌や顔はあちこち、灰色に変色したかさぶたのようなもので覆われている。
それ以外にも、服の破れ目から妙にキラキラしたものがのぞいている連中がいるし、あの着物を突き破ったあのとげとげはいったい何?
ええと、最初から思い出してみよう。
確か私は、空と、会場を飛び出した。
その後、なんだか身体の芯、骨格から軋むような痛みが走って。
気が付いたら、私も空も縮んでいたんだ。じゃあのとき、会場であの人達も同じように変化したってこと?
じゃあ、すぐに会場に戻っても大丈夫だったってことだろうか。
でもあの時は、隠れることしか考えられなかった。
この姿をママにしか見せちゃいけないと思って。
鏡に映る青金を見ているうちに、変だと思った。
「ママはどこ?」
鏡を見詰めていつまで待ってもママの姿は映ってこなかった。
いや、なんとなく人数が減っていないか?
もう少し人数がいたと思う。その減った人数はいったいどこに行ったの?
「ああ、取られたんだろう」
私の考えを呼んだかのように日無が呟いた。それに聞き捨てならない。ママが何に取られたというの。
「何故こんなことになったか、知りたいか?」
日無は態勢を変えて、私を覗き込むようにして尋ねた。
知りたくないはずがない。それに、ママがどこに行ったのか、はぐれた空と合流できるのか、それを知るには日無の話を聞くしかない。
日無はにたりと笑うと話を始めた。




