青金
麻巳子さんがいなくなっちゃった。
麻巳子さん。
さっきまで麻巳子さんが立っていた辺りには、何もない。
さっきのはたぶん親戚だと思うけど、話したこともない相手だった。
でも今いなくなったのは麻巳子さん。小さいころから知っているだいぶ年上の従姉
ぷつんと何かが切れた音がした。
目の前が真っ白になって、額が熱い。
頭が真っ白になったんじゃない。物理的に目の前が白くなっている。
「え。何?」
太陽を直視したような痛みを瞳に感じる。
そして気がつくと、私の立っている中心からクレーターのように床がえぐれていた。
「おい、お前も三つ目になっているぞ」
信がそう言って私の顔を指差す。
額の皮膚が突っ張ったような感触。
額をこすると、眼をあいたままこすったような感触があった。
もしかしてこのままどんどん人の姿からかけ離れてしまうんだろうか。
軽いめまいとともに、私は周囲を見回した。
麻巳子さんを除く、小父さん小母さんはまったくいなくなっていた。
そして人数も、若い人たちの人数もだいぶ減っている。
おそらくあの光に、呑まれてしまったのだろう。
「誰が残っているの」
洋君と信。それに円さん。
あとは見覚えのあるようなないような顔。それが三人。
「ああ、隆俊も無事か」
信がそう言った。
隆俊と呼ばれたのは、信と同じくらいの年かっこう。たぶん高校生だろう。
さっきまで来ていた制服は敗れ、ひびの入った眼鏡が痛々しい。
眼鏡の奥の瞳の色が変化していた。金色に。
これくらいならカラーコンタクトでごまかせるよね。
そんなことを考える。
もう一人はさっき麻巳子さんに振袖を脱がされていた子だ。
「茉莉花ちゃん大丈夫」
そう言って円さんが茉莉花ちゃんに駆け寄る。
なんとなく中学生かなと思う。なんとなくだけど。
茉莉花ちゃんは円さんにしがみついて泣き始めた。
「雄一がいなくなっちゃった」
最初にのまれた中学生くらいの子が茉莉花ちゃんの弟だったそうだ。
「とにかく、ここを動こう」
さっきまではなまじ数が多すぎたために停滞していた。それに、ここだってもう安全じゃない。
「あの、扉の向こうは」
恐る恐る洋君が聞いた。
「叩きのめす」
私は宣言した。どちらかというとあんなでかぶつ相手にする自信はなかったが、それでも進むしかない。
「せめてあっちの扉から出ない?」
突き破られた壁の向こう側の部屋そちらにも扉がある。
「まあ、それでも廊下にあれがいると思うけど」
扉の位置からすれば、あちらの扉と廊下でつながっている。
それでも私は扉を開けた。
 




