青金
「ええと、青金ちゃん、大丈夫?」
困ったような顔をして、麻巳子さんが、この会場に戻ってくる。
「そっちは何もなかったんですか」
瓦礫を払いのけながら私は立ち上がった。
この瓦礫、一個でもあたっていたら、普通は命にかかわるよね、いいんだか悪いんだか。
私はこういう状況になってもかすり傷も負っていない。
「気付かなかったの?」
「何が?」
ぼろけた元ウェディングドレスも痛々しい理津子さんも、よろよろと立ち上がる。
血溜まりで転んだのか、白かったドレスは、灰色と赤で奇妙な模様が描かれている。
振り袖姿の人が、帯を引きちぎって、着物を脱ぎ捨て、肌襦袢一枚になる。
「まあ、江戸時代なら破廉恥な格好かもしれないけど、これなら浴衣とそんなに変わんないわよ」
まあ、穴が開いていたのでもう使い物にならないかもしれないが、もったいない。
「青金ちゃん、だっけ。あたし、円、よろしくね」
なんだかのんきな会話をしている。
円さんはちょっと切れ長な目が色っぽい二十歳の人だった。薄紅に水流をえがいた襦袢がかえって似合うかも。こういうのを婀娜っぽいというんだろうか。
変化は、洋君と同じ、スパンコールのような鱗だ。
袖からのぞく腕にびっしりと生えている。
円さんを見習って、もう一人、振袖を脱いだ子がいる。
肩から角のようなものをはやした人だ。角が引っ掛かって脱ぎにくそう。
あ、見かねた麻巳子さんが手伝いに行った。
顔を見れば私と同い年くらい。制服で来てる私は、被害が少なかったみたいだ。
そして私は下に視線を向ける。
「いつまで寝てんのよ」
瓦礫に頭をぶつけて床に寝ころんだままの信を蹴とばした。
「何するんだよ」
信が身体を起こす。
「立てるなら立っていたほうがいい。もうすぐ、来る」
麻巳子さんが呟いた。
来るって何が?
その時、再び床が揺れた。
麻巳子さんは傍らの女の子を片手に飛びのく。
間一髪、何か光の柱のようなものが、二人のいた場所につきだした。
「来るわ、敵よ」
麻巳子さんが断言する。
さっきのことを考えれば、たぶんそれが妥当だ。だけど、敵が来るってどうしたら。
さっきの光の柱が敵なら、いったいどうすればいい、あれを叩いてどうにかなるだろうか。
よくわからないでいるうちに、壁を突き抜けて、何かが飛び出してくる。
私達はそれをかわすのに精いっぱいだ。
一人、中学生くらいの子が捕まった。
そのまま、内部に取り込まれ消えてしまう。
「まさか、食べられた?」
背筋に冷たいものが伝った。
そう思えば、必死だ。私だけじゃない、全員の形相が変わっている。
うわ、髪がかすめた。
数メートル飛びのいてバクバクいっている胸を押さえる。
その向こうで、麻巳子さんがいくつもの光に取り囲まれている。
麻巳子さんに逃げ場はない。
「麻巳子さん」
喉がひりつく。だけど近づけば私もあれに取り込まれる。
麻巳子さんはなすすべもなく消えていった。




