夜
私はしばらく意識を失っていたようだ。
ここはどこだろう。
目をこすりながら、周囲を見回す。空、それにママはどこ?
がらんとしたただ真っ白な空間。
さっきまでいたのは、そして意識を失うまでのことを思い出す。
「どこに連れてこられたの?」
私はどうやってここに来たんだろう。
さっきまでいた場所。あれは郊外の式場。ホテルは別棟らしい。
式場だけで十分広いので、ホテルがどうなっているのかわからない。
あの会場は、変な生き物が、職員らしい人を殺したり食べたりしていた。
すっかり馬鹿になっていた鼻に血の臭いは感じられない。
ブラウスについているのは、もっぱら空が始末したあの変な生き物の体液だ。あれは血の臭いとちょっと違う。
私は、あまり浴びたくなかったので焼いていた。
肉を引き裂く手ごたえはあまり好きじゃないのだ。
そして、私の中にざっとあるこのあたりの地図にありえないこのだだっ広い空間。
もしかして、式場ごと、まったく別の場所に飛ばされたのだろうか。
一人だ。
ここに誰もいない。ママも、空も。
喉が張り付いたような嫌な感じがする。周りには何も見えない、ただ白いだけ。
首を何度も振る、残像が残るくらいの速さで。だけど何も見えない。
「ママ、空、青金でもいいから」
小さく呟いた。
誰かの手が私の頭に落ちた
背後を振り返る。
期待とは裏腹に初対面の相手だ。
しかし、顔見知りの子供であるかのように私の頭をなでている。
「誰?」
長い黒髪に、真っ白な細長い顔。切れ長な目が私を見下ろした。薄い唇が笑みをえがく。
白いずるずるとした長衣を着ている。なんだか南の方の民族衣装にあるような服だ。
「俺は日無だ」
そう呟く。
「二人とも連れてくるはずだったんだが」
私を引っ張り込んだ布のようなものはこの日無が送ってきたのだろう。
「ここはどこ?」
「ここは通路さ、行き方を知らないか?」
私は首をかしげた。
「まあ、いい、わからないなら」
「ねえ、何が起きてるの?」
聞いてからそのまま私はうつむいた。
この日無が、今危害を加える様子がないと言ってこれからもそうとは限らない。
「ついて来い、置いて行くぞ」
言われて私はのろのろと立ち上がる。ここがどこかわからないし。それに、どこに行くにしろ日無についていくしかない。




