青金
麻巳子さんは巻いていたスカーフを外した。
「とりあえず、同じ状態になった連中は集まって」
そう言って、全員を呼び集める。
「理津子さん。あなたは外が見えると言っていたわね、だったらできるだけその光景に集中して」
麻巳子さんの言葉に、理津子さんはこっくりと頷く。
そして、デコレーションケーキのようなウェディングドレスのすそを掴んでびりびりと引き裂いた。
「動くのに邪魔です」
そしてピンヒールも脱ぎ捨てる。
「スリッパでも履いてる?」
私は、隅のほうに置かれている箱からスリッパを取り出して理津子さんに渡した。
「あ、ありがとう、ええと」
「青金、です」
正面に立ってみると理津子さんはかなり小柄だった。ピンヒールを脱げば、ドレスのすそを引きずるだろう。
「そのドレス、レンタルですか」
「そうよ、レンタル、でも弁償はあちらにしてもらうわ、それくらい当然よ」
三つの目が花婿を睨む。
それでも必死にそっぽを向いている。その根性は大したものだ。
「すいません、理津子さん」
眼鏡をかけた少年が、震得る声で、理津子さんに話変えた。
よく見れば、どこか花婿に似ている、このシュチエーションで理津子さんに謝ると言うことは、花婿の親族の一人だろう。
手の甲に鱗のように光るもの、まるでスパンコールだ。
まっすぐに切られた髪や、どこかその表情はおぼっちゃんぽいが、それでもこの状況で人に気を使えるというのは結構度胸が据わっているのではないだろうか。
「君が謝ることはないわ、洋君」
理津子さんは苦く笑う。それで、弟の君に対してもそうなのね」
洋君、たぶん私とそんなに変わらない年で、いの一番に逃げた家族に傷つく様子も見えない。
なんだか私は泣きそうになった。
私の両親は今もどうしていいか分からない顔で、こちらを見ている。
こちらの会話は聞こえているだろうけれど、近づいてくるふんぎりが持てない。
理津子さんは両目だけを閉じた。
「何か、近づいてくる、とても大きなものが」
麻巳子さんの表情も引き締まった。
「全員、あちらから離れて」
麻巳子さんが指さした方向。それは今は使われていないはずの隣の会場だった。
理津子さんも、こっちに来いとそちら側の壁に張り付いている人間を手招いた。
今度は私にもわかる。まるで隙間風でも吹きこんでいるようなそんなものが感じられる。
建物の構造上隙間風はあり得ないのだけど。
鉄筋コンクリート製のはずの壁一面に亀裂が入った。
それを見てボケっと突っ立っていた連中も慌ててこちらに走ってこようとする。
遅かった。
麻巳子さんの言葉を聞いてからなら間に合ったのに。
砕けたコンクリートに打たれて、血しぶきがこちらまで飛んできた。
 




