しごとにん
5月27日。
日曜日の昼下がりの電車の車内。
今日は快晴、車内は少し混雑しているが明るい雰囲気を漂わせている。
声高くおしゃべりする女子高生。
となりの女の子は鏡を取り出している。彼氏とこれからデートなのかメイクチェックに余念がない。
目の前のおじさんは、ああ今日ダービーですもんね。スポーツ新聞に穴があくほど予想に没頭している。
まあ皆様理由はどうあれ、初夏の日差しが眩しい日曜日となれば明るい雰囲気は当然の事。
そう、ただ一人をのぞいて。
ここまで前置きが長ければ、その一人が誰なのかは言わずもがな。
そう、俺です。
俺は今から彼女に振られに行くんです。
恋に破れ。
『優しい口だけの人とは将来考えられない。』
彼女の言い分。
そりゃもっともだと車内一人つぶやく。
年の頃は30代半ば、見た目ちょっぴりお腹が出てきた中小メーカーの営業マン。
そんな俺の他人からの印象は『優しくすごくいい人だけど、おとなしい目立たない人』だもの。
今日はそんな彼女をなだめようと、いつもデートしていた所にメールで呼び出しているんだけれど。
メールの返信はまだ、ない。
でも奇跡を信じて目的地に向かう俺はなんだか可愛らしいじゃないか、と自分を励ます。
うん、俺は安月給だけど話せば分かるさ。
そんな事を考えていたらポケットの携帯が震える。
彼女からか!
携帯の画面を見てがっかりする俺。
それは彼女からではなく仕事のメール。
それも普段の営業ではなく、副業でやってる仕事のボスからのメール。
もしこの仕事の内容を、いやここの稼ぎを彼女の為に使えたら。
そう思えて仕方がない。
ボスからの内容は一言、
『依頼あり、今どこだ』
俺の副業は『殺し屋』。
今日は愛しの彼女に会えるのかな、、、(続く)