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第十章 名もなき救世主

 眩さで顔をしかめる。無意識に目を開く。眩し過ぎて、そして瞼があまりにも重過ぎて、気持ちははやるのに、開くのが、遅い。

「み……どり……深緑っ!」

 何廻振りに聞くのだろうと思わせる懐かしい声――父の声。

(あ……わたし、いき、てる……)

 思った言葉は声にならず、ただ唇がそれを重そうにかたどるだけだった。ナースコールを押す父の仕草で、自分が病院のベッドで横たわっているのだとようやく気づいた。そんな父と視線が合う。

「そうだよ。ちゃんと、生きてる。パパは信じていた。三ヶ月も眠ったままだったけれど、必ず目を覚ましてくれる、と」

(さん、か、げつ……?)

 父が目を潤ませながら小さく頷く。ステンレス製のベッドフェンスに映る自分を見て愕然とする――幼い自分に戻っている。パルディエスに飛ばされて間もない頃の、まだ十四歳だった頃の自分に。

(ゴメ……ンナサイ……っ)

「深緑?」

 途端、涙が溢れ出す。生きて帰って来れたことが嬉しいのか、戻ってしまったことが悲しいのか解らない。主治医や看護師が病室へ赴き検査をしている間にも、何を問われてもただ泣くことしか出来なかった。


 三ヶ月という時間は、深緑がパルディエスで過ごした五廻を思えば短いものではあったが、身体機能を劣化させるには充分過ぎるほどの時間となったらしい。リハビリが必要だと言われ、頭では自分でもそうすべきだと解っていても、心がついていってくれなかった。

「深緑、話したくないのなら、無理をしなくていいのだが。まだ、人と話すのが怖くてリハビリを進められないでいるというのなら、無理に学校へ通おうとしなくていいんだよ」

 この三ヶ月間もそうして来てくれたように、父は仕事道具を病室へ持ち込み、翻訳の仕事をする傍らで、他愛ない話をするようにぽつりと漏らした。

「でも、パパはそれが原因ではない気がしてしょうがないんだ。ミドリがあんなことをする前までは、今みたいなことさえしてくれなかっただろう」

「今みたいな?」

「パパに、心配もさせてくれなかった。パパはそんなに頼りないかな、と随分自分を責めたのだよ。でも」

 ひと呼吸置いたのは、口にしていいのかどうかためらったからなのだろうか。父は一度空を見上げて思案の様子を見せたあと、照れ臭そうな笑みをまっすぐ深緑に向けた。

「少し、期待してしまうのだよ。パパを信じて、思っていることを話してくれるのではないか、と」

 何が深緑に辛い思いをさせているのかと、そんな優しい言葉で尋ねられたら。

「パパ……私……」

 堪え切れなかった。わがままな親不孝だと解っているのに、どうしても隠し切れなかった思い。父に対する罪悪感よりも、虐めに対する恐怖よりも。

「ハイレンを……置いて来ちゃった……エボルを……みんなを……私を必要だと言ってくれたのに……っ」

 失くしたパルディエスでの五廻という時間が、悲しかった。初めての恋を失ったことが、苦しかった。何よりも、夢と割り切るには生々し過ぎる、産み落とした我が子への愛しさと会いたさを捨て切れなかった。

「深緑? 何を」

「パパ、信じてくれないかも知れないけど、私」

 深緑は、眠っている三ヶ月の間に過ごした五廻の月日を父に全て吐き出した。父が深緑の話を信じたのか解らない。だが、親不孝な娘なのに抱きしめてくれた。

「パパが悔しく思うほど、素晴らしい五年を積み重ねて来たのだね。そして、一番深緑に知っていて欲しいことを彼らは教えてくれた」

 人はどんなに孤独だと思っても、本当に独りではないのだ、ということ。愛する人が必ず誰もにいるということ。それに気づくか否かは自分の心眼次第なのだ、ということ。

「自分の望む、目に見える反応だけが愛情表現の全てじゃあない。深緑がそれを解ってくれて嬉しいよ。ママは好きで日本語を話せなかった訳ではないし、それが悪いことでもない。日本に住んでいるのも、縁でしかない。もう二度とパパを泣かせないでくれるよな」

 父が自分や母を恨んでのリストカットだと誤解していたのを、深緑はその時初めて知った。

「パパ、違うの。あのね」

「もういい、充分だ。お前の瞳が大人になったと伝えてくれている。それだけでパパはもう……充分だ」

 自分の話を、本当に信じてくれたのだろうか。随分早い親離れだ、と寂しげに微笑まれたら、無性に胸が痛んだ。




 悪戯に、日々だけが過ぎていく――。

 復帰後の生活は、深緑にとって退屈なものだった。あんなにも傷ついた同級生や教師からの棘のある言葉に心を痛めることはなく、むしろ彼らに宿るさもしい心に哀れみさえ感じた。目を見開けば、近所の幼馴染や小学生時代の友達が変わりなく自分を受け容れてくれる。父が家庭教師をつけてくれ、自分のペースで勉強に励めば、それは全て深緑の糧になり、クラスを中心とした学校生活は形骸的なまま卒業を迎えた。

 高校に在籍の間、文章を書くことに目覚めた。やりたいことが出来たから。

『パパ。私ね、夢の中で感じたことを、少しでも多くの人に伝えて行きたいの。でも、私にママみたいな創作の才能なんてあるかしら』

 大学を選ぶ際、そんな形で父に相談をした。父は腕組みをしてしばし考えたあと、とても欲張りな提案をしてくれた。

『今の時代、物語ならば自費出版が出来る。目覚めてからのこの四年、本当にお前はよく頑張ったよ。ご褒美という訳ではないが、その費用をプレゼントしよう。好きなように書いてごらん。進路は潰しの利く学部にしたらいい。将来翻訳家を目指すのなら、教授の友達に色々聞いてみてもいいよ』

 執筆と翻訳の勉強を続ける傍らで散々悩み、出した結論は翻訳の道だった。自分は物語を書きたいのではなく、伝えたいことを伝える、そのこと自体が目的なのだと覚った。

 騙されても、疑わしくても、それでも人は決して独りでは生きていけない。信じる気持ちを忘れないで欲しい。愛することと愛されたいという気持ちを間違えてはいけないということ。人は、人の間だけではなく、自然という大きな世界の中で『生かしてもらっている』のだ、という謙虚な気持ち。シェリルの大樹から教わったことが、深緑の最も伝えていきたいことだった。古来語り継がれている、日本を含めたいろんな国の神話や寓話、そして現在も次々生み出されてゆく物語達。深緑は自分の経験を踏まえた解釈を交えて、それらを伝えていきたいと強く感じた。

 パルディエスでの暮らしを綴った物語は、童話という形で自費出版された。その本を無償で保育園や病院の待合室、図書館などに置いてもらった。巻末に自宅の住所を記載して。

『神奈川県横浜市●●区XX 梶谷方 深緑の救世主――あなたの心にのこった気持ちを、どうぞこの物語を知らないだれかに伝えてあげてください。おたよりをくだされば、もう一冊お届けします。深緑の救世主メサイアより』

 とても数は少ないけれど、あれから二年過ぎた今でも、時折ぽつぽつと郵便が届く。メールなどの電子媒体と異なり、手書きの温かさは深緑の心を刹那の時間温めた。

 あれは、夢だったのだ。長い長い、夢物語。もうハイレンと逢うことは二度とない。

 新しい恋を探してもみた。あまりにも父が心配をするから。気づけばもう二十歳になっていた。

(ハイレン……エボル……どうしてる?)

 ――逢いたい。

 この六年間に枕を替えた数が幾つかを忘れてしまうくらい、未だに夜毎枕を濡らす自分がいた。


「深緑、バイトをしてみないか」

 ある日、父の書斎に呼ばれると唐突にそんな打診を受けた。

「どうしたの、急に」

「うむ、知り合いの教授の部下という人がね、僕を指名してドイツ語訳のレポートを作る依頼をして来たのだよ。だが、教授自身ならともかく、助教授の子ではねえ。正直な話、ギャラを望めないだろう」

 困った父の顔で、およその見当がついた。

「でも、ファンだなんて言われたし、教授の部下ともなれば迂闊に断れないし、ってところ?」

「そういうこと。それに、ちょっと僕としては彼の立場を考えてみれば、僕を指名するだなんて結構厚かましいと思ってしまってね」

 今までに見たこともない毒舌ぶりに内心驚く。確かに父は著名な翻訳家だが、それを鼻に掛ける傲慢な人ではないはずなのに。

「娘に代理を頼もうと思うのだが、と彼の人柄を訊いたんだが」

「ちょっと、何考えてるの。親ばか過ぎて恥ずかしい」

 また手の込んだ見合い話に持っていくのではないか、という警戒心が働いた。

「これがまた、ブナの品種改良しか頭にない研究馬鹿らしくて、女っ毛がないどころか、妙に色白な所為でゲイ疑惑まである変わり者らしい」

「……そこ、笑えない部分ですけど」

 呆れた声で父に説教をする。人にはいろんな趣味嗜好があって当然だ。自分にとっての正解が、人にとってもそうとは限らない。

(ディエルトで身を以てして知ったこと……知らない、って、怖いよね)

 心の中で、語り掛ける。でも、答えてくれるキュアのノイズは相変わらず聞こえなかった。

「どうだ、深緑。やってみないか」

 そう言って俯いた顔の先にA4サイズの分厚い茶封筒が突き出された。父なりの自分に対する配慮だと思い、受け取るまでには笑顔を取り戻せた。

「うん。これ、来年からの就活のレジュメに入れるの平気かな」

「ま、いいんじゃないか。本当に必要になった時には、僕から教授に伝えておくよ」

 ありがとう、と礼を告げると、深緑は早速独語訳に取り組もうと自分の部屋へ引き返した。


 ファックスの送信案内と依頼内容の手書きされた文面を読んで、深緑は父の不満に納得してしまった。ファンだと言いつつ、どこか不遜を感じさせる文面。しかも、仕上がった原稿は外部データとペーパーデータの両方を揃えた形で研究室か自宅まで届けて欲しいと厚かましい受け渡し方法まで指定してある。意外と近い場所に自宅があるようだ。休日は自宅へとのことなので、この依頼を最初で最後にしようと考え休日までに仕上げることにした。

 内容は、かなり興味をそそられた。そして、何かが引っ掛かった。

「……ブナの光合成による、マイナスイオン、の発生量を、ぞ、う量、させるには……あれ?」

 マイナスイオンは、確か人間にとって、アルファ波を促進する癒し効果があると聞いたことがある。

「まるで、シェリルみたい」

 添付されていた写真を見て、深緑は思わず声にした。草原の中に凛と佇む、幹の太い一本のブナ。随分樹齢が高そうだ。それは深緑に、元々パルディエスにあったという聖なる丘のシェリルを思い出させた。

 仕事自体が楽しくなる。ブナの生態を記す時間は、まさにシェリルを思い起こす懐かしさを堪能させた。幹に耳をそばだてると聞こえて来る水音。それはブナが地中の水分を吸い上げる音なのだそうだ。シェリルから響く心地よかったあの音に似ているのだろうか。そう思うと、実際にブナの大樹をこの目で見たくなった。

「……で、ある、と。終わったー」

 あとは本人に確認して、研究チーム名のみかメンバー名も入力するか、という程度の加筆修正になるだろう。ノートパソコンを持って行ってその場で直せば済む。そのページだけなのだから、データから取り出して自分で印刷くらいしてもらったらいいのだ。著名な父を相手にこんな細かい指示を出すような、世間知らずの研究オタクのようだから。

「もう、何様なのよ、この榛原漣って人」

 ――ハイバラ、レン?

「深緑ー、また手紙が届いてるよー。降りておいで」

「あ、はーい」

 一瞬引っ掛かった想いが、父に呼ばれた瞬間、消えてしまった。




 事前に研究室へ伝言を頼み、休日に榛原漣とのアポイントが取れた。

「ねえ、パパ。変じゃない?」

 こちらは真剣に聞いているのに、父は聞こえない振りをしてずっとパソコンに向かったまま無言を貫いている。何が彼を不機嫌にさせたのか解らないので、こっちまで段々と苛立って来る。

「もう、パパ、聞こえてるでしょ」

「何もめかしこんでいく必要なんかないじゃあないか」

(……あ、そういうこと)

 過保護過ぎる。心の中で毒づく割に、刺々しい気分は和らいでいた。父は単に拗ねているのだ。勝手に変な誤解をして。

「遊び着っぽく見えたら仕事までそう見られそうで嫌じゃない」

「……スーツは戦闘服だと思って着るものだ。下の鎖骨まで見えるそれは、いかん。ちゃんとシャツかブラウスにしなさい」

「……あ、そ」

 ぼやく深緑の鼻腔が呆れる余り大きく膨らんだかと思うと、ふぅ、と思い切り荒い鼻息を吹き出した。


「え……、ちょっと、部屋番号が解らないじゃないの」

 もらった書類には地番しか書いていなかったので、勝手に戸建住宅だと思い込んでいた。ポストを見ても、表札を入れていないものが幾つかあって、何号室が榛原の部屋なのか解らない。管理人室の照明は消えている。深緑は心の中で、管理会社の怠慢振りに文句を千文字くらい吐いていた。

 馬鹿馬鹿しい手間だと思いつつ、携帯電話から目の前にいるであろう住人の自宅をプッシュする。

『はい、榛原です』

 その声に、心臓が跳ねた。

『もしもし?』

 聞き間違いでも、夢でもない。夢で毎夜聞いては枕を濡らす、懐かしいほど愛しい声。

『いたずらですか? 切りますよ。ごめんね』

「あのっ」

 慌てて声を発した。その拍子に瞳を潤ませたものがぽたりと零れ落ち、歪んだエントランスの扉がクリアになった。

「梶谷深雪の、娘です。あの、原稿を、お届けに上がり、ました」

 息が苦しく、声が途切れがちになる。うるさいくらい、心臓が激しく早いビートを叩き出す。

「その、部屋番号が、解らなくて、突然、お電話差し上げて、すみません」

『……ああ、こちらこそすみません。一二〇五室です。どうぞ』

 うぃん、と小さな音を立てて、ガラスの扉が深緑を先へと促した。

『鍵は開けておきますから、勝手に入ってくださいね』

 一方的にそう告げ、深緑の動揺を余所に彼は電話を切ってしまった。

(まさか……まさかまさかまさか、嘘……)

 咄嗟に浮かんだファンタジーな希望を捨て切れない自分がいる。そっくりな声、そっくりな名前。初めて彼の名を声に出して読んだ時、ふと引っ掛かったそれは、「ハイバラレン」――ハイレン。輪廻とか転生とか、それは仏教のご都合理論に過ぎないと自分に言い聞かせる。部屋の前に辿り着くまでの時間を、こんなに長く感じたことはない。ドアノブを握る手が震えている。ひねる前に二度三度、大きく深呼吸をして息を整えた。

「十五、六の子供じゃないのよ、私。そんな夢見てる場合じゃないでしょ」

 声に出して言い聞かせる。自分は仕事中なのだと言い含め、潤んだ目許をもう一度拭ってからドアノブを右へ回して引いた。

「失礼致します。梶谷です」

「どうぞ」

 かすかに奥から聞こえる声は、やっぱり彼とよく似ている。ヒールを脱いでスリッパに滑る足が、なかなか巧くそこに納まってくれなくて、焦れた。開きっぱなしの扉に向かい、短い廊下に足をすらせる。

「あ、ここです。今お茶を淹れますから」

 そう呼び止められ、声の方へ視線を向けた。

「あ……りがとうございます。お気遣いなく」

 淡い期待が軽い失望に変わった。キッチンで湯を沸かしながら、ティーポットとカップを取り出している人は、紅玉の瞳でもなければ紅の長髪でもない、極普通のどこにでもいる中年の男性だった。ひょっとしたら起きたばかりなのではないかとさえ思わせるだらしのなさ。無精ひげもそのままで、襟足まで伸びた髪の一部が寝癖で跳ねている。半分閉じた瞼は、まだ眠いと訴えているようだ。背も、裕に一八〇センチは下らない長身だが、ハイレンほど高くはない。だがそれは深緑が現実に戻ってからも成長したので、ひょっとしたらハイレンと同じくらいかも知れない。

(って、また私ったらハイレンとほかの男の人を比べてる)

 いつもそれで失恋した。そんな自分を自覚してから、恋することを止めてしまった。

「あ、どうぞ。ソファに座って待っててください」

 七時に帰宅したところだったんですよ、と彼が苦笑混じりに言い訳をした。現在時刻は午前十時。

「もしかして、お忙しかったのに無理にご帰宅させてしまったんじゃ?」

 すぐ寝たとしても、三時間弱だろう。見た目だけで、無精の所為で婚期を逃した中年男、という独身の中年男性に抱くありがちな偏見を持った自分を恥ずかしく思い、「すみません」と必要以上に深々と頭を下げた。

「いえいえ、勝手に研究に没頭しちゃったんですよ」

 深緑の第一声は明らかに剣呑な響きを孕んでいたのに、苦にもしていない顔をして屈託なく笑う。その横顔に、胸がきゅんと痛くなる。馬鹿、と理性が叱るのに、勝手に鼓動がまた早くなる。

「あの、私が淹れますから。っていうか、お届けに上がっただけなので」

 声に変な力が入るが、それすらもうどうでもいい。キッチンへどかどかと入り込み、榛原の手からティーポットを奪い取る自分がいた。

「すぐ帰ってしまわれるんですか? 翻訳してくれたのなら、内容を読んでくれたと思うんですけど」

 彼が何を言わんとしているのかが掴めず、深緑は彼を見上げてしまった。

「ブナのこと、少しは好きになってくれましたか」

 子供のように、そう訊いてまた笑う。また、とくん、と心臓が悲鳴を上げる。全然違う人なのに、どうしてそんなに彼を思い出させるのか。解らないまま彼の問いに答えを返す。

「本物のブナの樹に、耳を寄せたくなりました」

 よかった、と彼が溜息混じりに呟く。その吐く息の多さに驚いた。

「学者って、まあ仕方のないことですけど、理論が先に立ってしまいがちなんですよね。でも、生物学や植物学って、まずその対象を好きであることからでないと、という私の持論はなかなか理解を得られなくて」

 別に教授になりたいのではない。出世や賞や新たな発見で名を馳せたいという訳でもない。とつとつと彼が、そんな話をし出した。

「私はね、本当は研究会で発表するより、講演とかで一般の人達にブナを好きになるような話を聞いて欲しいだけなんですよ」

 穏やかで、でも少し寂しげな声で語るその声の抑揚は、やはり愛した人によく似ていた。

「あ、これ、私が栽培したハイビスカスで作った茶葉なんです」

「じゃあこれは、昔はよく売っていた、純粋なハイビスカス・ティーなんですね」

「そう。市販のには、どうしてもローズヒップが入ってしまうでしょう」

 あなたに、本当の紅を見せたいと思って、なんて言われたら深く勘ぐってしまう。

「初対面なのに」

「変ですよね。でも、電話であなたの声を聞いた途端、急にそうしたくなったんです」

 湯を注ぐ手が震えてしまう。なぜ彼がいつまでも隣にいるのか、あれこれ勝手な憶測を浮かべてしまう。

「うーん、やっぱり女性の方が上手に淹れられるものですね」

 行儀悪く、リビングへ運ぶ前に紅茶へ口をつける彼を見て、思わず深緑は噴き出してしまった。

「榛原さん、子供みたいです」

「……よく仲間にも言われます。ゲイと子供、矛盾してると思いませんか」

「ご存知だったんですか、そんな悪口まで」

「悪口というより、可愛がられてるんじゃないですかね。ほら、若い子達とか芸人とかで言うじゃないですか。いじられキャラ、とかいう、あれですよ」

 決して面白くなんかないのに、どうしてそれでも笑ってそんな風に許せるのだろう。

「不思議な人ですね、榛原さんって」

「私から見ると、あなたの方がよほど不思議な人ですが」

「え、どうしてですか」

「そんな噂話も聞いていて、若いお嬢さんなのに、よくここを訪ねてくれたな、と」

「あ」

 言われて初めて気がついた。迂闊にも、その噂を耳にしていると彼に知らせてしまったこと。目上の人に対し失礼に当たるのではないかと、腹の底が冷える思いで俯いた。

「すみません」

「何が」

 問い掛ける声は、どこまでも穏やかで、そして優しくて。

「えっと……そこは、知らない振りをするのが大人の対応だったんじゃないか、というか」

「……立ち話も何ですし、あちらへ行きましょうか」

 そう言われて顔を上げると、目の前にティーカップが深緑を待っていた。


 数分後、深緑は自分の甘さを思い知る。同時に、榛原に対し、妙な憤りも混じる。

「追加があったなら連絡をくださればよかったのに」

「んー、まあ今日来てもらえるからいいかな、と思って」

「それに、ドイツ語をご存知じゃないですか!」

「日本語も必要でしょう。訳した書類を作る為に二度手間を掛けるよりも、少しでも研究に時間を回したくて」

「もうっ、勝手過ぎますっ。こんな依頼、父に頼んでいたら速攻で馬鹿にするなって癇癪起こしますよ」

「ミドリさんだから、頼んだんですよ」

(……え?)

「あの」

「当面掛かりますよね。その間に身づくろいでもして来ます。昼食くらい、ご馳走しますよ」

 榛原は深緑の言葉を遮り、それだけ言うと寝室へ行ってしまった。

「……まだ私、名前まで伝えてない」

 そして、今回で仕事は終わりのつもりで名乗る気もなかったのに。

「何で、知ってるの?」

 タイプする手が途絶えがちになる。指先が震えて巧く打てない。

「手、止まってますよー」

 着替えを手にしてバスルームへ向かう榛原に、そう冷やかされて我に返った。

「ちゃ、ちゃんとやってますっ」

「よろしくです。んじゃ」

 不思議な人。訳の解らない人。それに、ハイレンとは全然違う。あんな能天気な人じゃなかった。もっと考える人だった。もっとネガティブに考えてしまう人で、それが放っておけない気持ちにさせた。出来ることなら、ずっと一緒にいたかった。彼と、自分達の子供と、三人で。

「でも、彼はキュアだったもの……私はメサイアだったんだもの……」

 エゴの為に、人々を戦禍の中へ留めることが出来なかった。それは、何も知らなかったハイレンではなく、深緑が独りで決めたこと。

「仕事……進めなくちゃ」

 不意に自分の淡い期待が馬鹿馬鹿しいものに思えて来た。彼はハイレンじゃない。当たり前だ。名前もどうせ教授から聞いたのだ。種を明かせばこんなこと、そんなものがゴロゴロと出て来るだけだろう。

 カタカタと静かなリビングにタイプの音が鳴り響く。その速度は次第に速さを増して、いつもの深緑のテンポに戻っていった。


(……私、意外と欲求不満が溜まってるのかしら)

 ふと浮かんだ自分の言葉に一層耳たぶが熱くなる。さっきから心拍数が異常だ。シャワーと着替えを済ませた榛原の変貌振りに、タイプする指がしょっちゅうもつれる。モニタを凝視してわざと視線を避ける自分がいた。

(やりにくいからっ。何かほかのことしてて欲しい……っ)

 榛原が目の前で、じぃっとこちらを見つめて来る。その視線が痛過ぎて、作業がなかなか進まない。よれよれのシャツがおろし立てのものに代わっただけなのに。深緑のネクタイとスーツパンツを勝手に意味深と捉えてしまう。長めの前髪が時折揺れては見せる、柔和な全体とは真逆の引きしまった細い目許が、さっきから深緑の心臓に過剰労働を強いていた。その内破裂するんじゃないかと思うくらい、深緑の鼓動は早くなっていた。

「思い出したんですよ」

 向かいのソファから、不意に彼がそう言った。

「何を、ですか」

 問い返しながらも視線はあくまでもモニタに。でないと口から心臓が踊り出しかねない。

「あ、続けてくれていいですからね。……急にあなたにハイビスカス・ティーを飲んで欲しくなった訳」

 物心ついた頃から、心の中に住んでいる女の子がいると彼は言った。

「声の高い子で、よく喋る子で、放っておけないくらい頼りなく思わせる子供みたいな女の子で……その癖、私以上にしっかりとした、大人の少女です」

 実際に会ったことのある子なのか、それとも夢だったのかも解らなくなるくらい、気づけばいつも夢の中で一緒にいた。そう語る彼をちらりと盗み見ると、遠いどこかを見る目で空をぼんやりと捉えていた。

「私は子供だった当時から、夢の中では大人でね。ずっと、どうしたらその子に笑顔のままで過ごさせてやれるのだろう、ってことばかり考えていたんです。多分あれが初恋だったんでしょうね。あまりにも掴み所がなくて、初恋から卒業出来なくて、気づけば女性とおつき合いしても振られっぱなしで、いつの間にかもうすぐ四捨五入したら四十路になってしまう年になってました」

 諦めの混じる声で、そんな風に語らないで。深緑はタイプしながら、心の中でそう訴えた。

「私がブナに惹かれたのは、いつもその子と一緒にいるのが、ブナによく似た樹の下だったからなんです。父が自然教室というのに私を参加させた時に初めてブナの幹に触れたんです。小学校五年の時、だったかな。彼女に廻り逢えた気が、しました」

 彼が不意に立ち上がって席を離れた。深緑は心からほっとして溜息を漏らす。モニタが揺れて、見えなくなっていた。打ち込むタイプの音が、遅過ぎる。彼が席を離れている間に、急いで目許をハンカチで拭った。

 彼がほどなく何かを手にして戻って来ると、なにごともなかったようにまたソファに腰を下ろした。

「私がブナの研究を続けているのは、夢の中でずっと過ごして来た架空の樹木を作りたかったからだと思うんです。下らない研究だと皆に笑われているんですがね。時々、自分でも無意味なことを、と思ってしまうこともあったんです。そのくらい、孤独な作業でもありました。でも」

 言葉を区切られ、ついとテーブルに差し出されたもの。彼が手にしていた紙袋から取り出されたそれは。

「私の、本……」

「図書館で見つけて、こっそりコピーを取ってしまいました。これを見つけた時ほど、梶谷先生が著名な方だったことに感謝した日はありません」

 もう、抑え切れなかった。本から目を逸らしても、そのまま顔を上げられない。両の手はタイプする仕事を放棄してしまっている。

「同じ夢を見る人が、この世にいるとは思いませんでした。これは、ほんの一部、ですよね」

 物語に綴ったのは、救世主としての物語。二人のことを綴るのは、ハイレンとエボルを見世物にするようでどうしても出来なかった。

「若い頃は今以上に馬鹿な私でしたから、教授にその女の子のことも含めて話してしまったんですよね。研究を続けたい一心で。彼女と同じくらい、ブナを愛しているんだ、って。今の人に必要なのは、癒しなのだ、と。それを解って欲しくて、全部喋っちゃったんですよ。その結果が、いじられキャラ、という奴です。教授は馬鹿になんかしませんでしたけど、研究継続の理由を話さない訳にはいかない。あの人も私と同じで、巧い方便を使えない人だから」

 くすりと漏らす苦笑が、とても悲しい。二人だけの思い出に留めておけばよかった、と自分へ詫びるようなくすんだ笑みを零していた。

「本当に……」

 ――ハイレンなの?

 彼の目を見た瞬間、最後まで問うことがはばかられた。そんな瞳をしていたから。

「……変なことを言っているな、と怖がらせたのなら、すみません。でももし、そうでなかったら」

 ――触れてもいいですか。

 深緑に恐る恐ると感じさせる彼の申し出た声が、震えている。こんなにも符合しているのに、まだ彼自身が自分の記憶を疑い、慎重になっている。それが、深緑にはたまらなく寂しかった。

「……はい」

 おずおずと右手を差し伸べる。それを彼の大きな手がそっと包み込んだ。

「!」

 流れ込んで来る彼の夢、そして、記憶。それは分かち合う記憶だけではなく、その後の彼の生涯をも深緑に伝えた。


 メサイアなきあと、戦禍がパルディエスを襲った。侵略する野賊。守ろうとする戦う村人達。真名を晒す風習が新たな禍根となっていた。《ノイズ》に加え、呪詛によって、人が次々と弾け飛ぶ。血の雨、憎悪の連鎖。それは、深緑がパルディエスに訪れた直後の状態に近い。

 ただ違うのは、導く人々と、子供達、そして友好を締結した他国の人々や村人達との強い絆と固い信念。タクトとハイレンは、慈しみ信じる心を訴え続け、憎悪の連鎖を断ち切らせようと尽力した。タクトは、呪詛が利かなかったハイレンを襲った野賊の前に立ちはだかり、ハイレンを庇って命を落とした。荒れ狂う紅の龍。紅い涙を零しながら、その男を絡め取る。

 ――ミドリとの約束だ……次代へ継がせたくない行為をしては、ならない。

 ハイレンは自らにそう言い含め、男をしめつける力を緩めた。彼が地面へ落ちると同時に、ひとりの女がハイレンの前に躍り出た。遠い昔、宿しの儀の際、泣きながらキュアのシェルターへ訪れた女だ、とハイレンの記憶が過去を手繰り寄せた。想う人がいると告げられ逃がした女。

『彼を説得出来なくてごめんなさい。彼は、野賊に身を落としてしまうほど、新たな流れについていくことが出来なかったんです……許して……』

 彼女は傷ついた龍の身体にシェリルリーフの持てる全てを掛けて傷を癒すのに奔走した。

 男は呪詛で殺された少年の父親だった。やり場のない悲しみを堪え切れず、村を離反した。悲しみを怒りに変えて、それをハイレンに向けた。そんな道を辿るのはその男だけではなかった。旅を諦めざるを得なくなったハイレンのその後は、そんなことの繰り返しだった。

 女達が、立ち上がる。慈しむ、ということを知った彼女達が、我が子を守る意思を持つ。戦いという場に女達も加わり、それは時にキュアを守り、また時には仇とか弱い《ノイズ》を向けられる時もあった。

 よくも悪くも、時代が動く。人の心の流れが大きく変わる。そんな中、彼はただひたすらに、『負の心はシェリルの木陰で癒せ』と説き続け、やり場のない負の激情を受けては、それを独りで飲み続けていた。繰り返し皆に諭す。

『憎しみの連鎖は、悲しみを生み出すだけだ。綺麗ごとと諦めず、私とともに、生きることを許された身を互いに許し合う努力をしていこう』

 深緑の愛した笑みを湛え続け、ハイレンは出会う全ての人々へ語り続ける生涯を送った。限界を迎えたその刹那、駆け寄るひとつの小さな影。――深緑が身を切る思いで残して来た、紅玉の瞳の男の子、エボル。

『父上っ』

 まだ赤ん坊だったのに。深緑はそんな場違いとも思える感動を覚えてしまう。

『父と、そして母との約束だ。復讐を考えるな』

 父は少し、焦り過ぎたようだ。お前は焦らなくていい、少しずつ新たな時代を築いてゆけ。それが、父として、族長として、キュアとしてのハイレンが遺した最期のパスだったことを知る。

 命の灯火が消えるその瞬間、彼が最期に思い描いたこと。

 ――今度は、個としてミドリだけを想いながら生きられるディエルトへ辿り着きたいものだ。

 ディエルト――世界――その狭間を紅の龍が漂い彷徨う。漆黒の中、ふと気を抜いた瞬間、そこに溶けて個を失いそうなほど孤独な次元の彼方。あんなに大きな紅龍でさえ、小さな生き物にしか見えないと思わせる空間の中、彼は探し続け、辿り着いてくれた。長い長い時と空間の狭間を、苦しみながらも探してくれた。シェリルを思わせる深緑のオーラを頼りに、この世界を見つけてくれた。

 小さな光に身を躍らせる。唱える呪文は、何だろう。

 深緑がそんな疑問を浮かべた瞬間、白い闇が全てを覆った。




「気がつかれましたか」

 目を開くと、見知らぬ生成り色の天井と、心配そうに覗き込む榛原の白い顔が目に入った。

「あれ? 私」

「根を詰めさせてしまったみたいで、すみませんでした」

 突然倒れたのだと彼は言う。そんな馬鹿なと言いたいのに、彼の表情が深緑の言葉を飲み込ませた。

「私が横から余計なお喋りをしてしまった所為で、作業も遅らせてしまいましたし。今日中という訳ではありませんから、無理をしないでくださいね」

 何かが、どこかがさっきと違う。心に大きな穴が開いたような気分だ。

「私こそ、すみません。いきなりご迷惑をお掛けしてしまって」

 つい余所余所しい言葉に戻ってしまう。ゆっくりと身を起こしながら、彼に『お喋り』の続きを誘ってみた。

「お話の途中、でしたよね。その」

「ああ、ブナと、あなたの童話に出て来たシェリルが似ている、という話」

 違う。彼の記憶がすり替わっている。ふとハイレンの魂である彼から流れて来た呪文のパスを思い起こした。

『イ、ホル、アフ。メサイア、ディズ、ミテイルァング、エザレ、イ、リデア、エリル、アデ、カベルジュ。ウィ、ミス、ダイ、グェ、ゲスティニク、ウィダシェ、ニクト、ディミト、イ、ア、ミドリ、ディヌ、ゲスチィト、マチェン、コウネン』

 ――同じ歴史を辿る必要はない。どうかミドリと新たな歴史を作れますように。彼女にその後のパルディエスを伝えられたら、この記憶を私から消し去りたまへ。

(そういう、ことなのね……)

 うろ覚えになりつつあるパルディエスのパスだけれど。多分訳し誤ってはいないだろう。聞き間違ってさえいなければ。

「梶谷、さん?」

 不意にぎこちなく呼ばれ、我に返った。

「あ、はい。ごめんなさい。まだちょっと、ぼうっとしてるみたい」

 寂しさを苦笑で紛らせ誤魔化す。そう、この人は魂が同じでも、新たに生まれた、新しい生を歩んでいる。少し抜けているところも、日本人らしい黒髪に焦げ茶の瞳も、ハイレンではなく、榛原漣という別の人のものなのだ。そして、願ってくれた、もう一度ともに在りたいと。あんな暗闇で押し潰されそうな亜空間の彼方から、この世界へ舞い降りてくれた。

「そう言えば、きちんと自己紹介もせず失礼しました。梶谷深雪の娘で、深緑と申します」

 一から、もう一度彼と恋が出来る。それは考えてみれば、とても素敵なことではないか。それが彼の願い、望み。悲しい思い出に引きずられることなく、もう一度始めから出逢い直そう。必ず愛し合えると信じているから。そんな想いが深緑に自然な笑みを零させた。

「……よかった。伺っていいものかどうか迷ってたんです。何しろあなたにお願いする為に、わざと梶谷先生に対して失礼な依頼の仕方をしたものですから」

 彼の色白な頬がほんのりと染まる。照れ臭そうに頭を掻いた。

「……わざと?」

「ええと、ですね。さっきも話したのですけど、私が作りたいブナの品種というのが、あなたの書いたこの童話に出て来る、シェリルのようなもの、なんですよ。勝手に同じものを求めている、と思い込んでしまいまして。その、まあ何というか」

 今度一緒に、ブナの老木を見に行きませんか、とお誘いしたら迷惑でしょうか。彼は子供のように真っ赤な顔で俯いたまま、「このシェリルにそっくりなので」とつけ加えた。

 ことん、と鼓動が脈を打つ。さっきまでの激しいものではなく、穏やかでありつつ心地よく。彼の黒髪が、徐々にぼやけてたゆたっていく。頬に生ぬるい感触が伝っていった。

「あっ、あの、泣かないでください。その、やっぱり、こんなおじさんではご迷惑ですね。泣かせてしまうほど困らせてしまってすみま」

「行きます。連れてってください」

「は?」

 即答出来なかったのは、迷惑だからじゃないのに、相変わらずやっぱり、何て鈍感な人だろう。顔で泣きながら、心の中で苦笑する。時は繋がり、空間も繋がり、いつかブナはどこかの次元でシェリルと呼ばれるのかも知れない。ブナの老木とはきっと、レポートに添えられていたあの画像の樹のことだ。それが深緑に丘のシェリルを思い出させた。

「それから、榛原さん。名前で呼んでくれませんか。梶谷ってすごく、呼びにくそう」

 鈍感な上に、変わり者と言われ続けて臆病者な人になっているに違いない。だから自分から引っ張ってしまおう。魂はあの人のまま、きっと慎重な人だから。自分を傷つけまいと、すぐ物怖じしてしまうだろうから。

「……実は、梶谷先生を不躾に呼んでいる気がして、つい先生とつけたくなるな、と思っていたところです」

 では、深緑さん、なんて呼び掛けられると、その「さん」づけさえ焦れったくなる。

「いつご予定は空いてますか」

「毎週連れてってください」

「え」

「だって、毎週観測してるでしょう? 私もそれにつき合わせてください。今後の研究レポートのドイツ語訳も、実際に榛原さんとお話しながらリアルタイムで結果を聞いたらまとめやすいと思うんです」

「……長いおつき合いになりそうですね」

 薄紅どころか深紅と呼んでいいのではないかと思うほど、彼の肌が首許まで染まる。まるで彼の魂に宿る紅のオーラが、彼を包んでいるように見えた。

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