第1話:無能と罵られた男の、あまりにも早すぎる計算
「おいアレン! お前は今日限りでクビだ!」
勇者パーティーのリーダーであるガイルが、酒場の机を叩いて言い放った。
周りの仲間たちも、俺をゴミを見るような目で見つめている。
「攻撃魔法も使えない、回復もできない。お前が戦闘中にやっていることと言えば、指をパチパチ鳴らして『2!』と叫ぶだけだ。そんなゴミスキル、俺たちのパーティーには必要ないんだよ!!!」
俺の固有スキルは【最速算術】。『 1 + 1 』の計算を、世界中の誰よりも早く解くことができるスキルだ。
確かに、一見すると何の役にも立たない。戦闘中に「 1 + 1 = 2 」と言ったところで、迫り来るドラゴンが気絶してくれるわけではないからだ。
「わかった。今まで世話になったな」
俺は静かに席を立った。
彼らは気づいていなかった。俺の「1 + 1が世界一速い」という能力が、どのような次元に達しているのかを。
脳の神経伝達速度が、光速を超えているという事実に。
物理的に『 1 + 1 』を世界一速く処理するためには、脳内の電気信号が通常の人間の一兆倍のスピードで動く必要がある。つまり俺にとって、世界の時間はほぼ完全に停止しているのだ。
「じゃあな、みんな。元気で」
俺が部屋を出る。その瞬間、ガイルが怒りで顔を真っ赤にして口を開こうとした。
(……遅い)
ガイルが口を開く一瞬の間に、俺の脳内では『 1 + 1 = 2 』の計算が、すでに40億回繰り返されていた。
世界の全てが止まって見える。俺は停止した世界の中で、ゆっくりと歩きながら酒場を出た。
「さて……次はどのダンジョンで、この『暇つぶし』をしようか」
これが、後に『光速の算術師』として世界を揺るがす俺の、最初の第一歩だった。
(つづく)




