バレンタインに職員室にチョコを預けた女子がなぜか返してもらいに来ない
「先生ー。チョコ間違えて持ってきちゃったんで放課後まで預かっといてくださーい」
そう言ってチョコレートを手渡してきたのは、俺が担任を務めるクラスの女子生徒、金井だ。チョコレートは丁寧にラッピングされていて、彼女の几帳面さを感じた。
「? あ、うん。預かっておくね」
困惑しながらも一応受け取っておく。もうこれで十個目だ。こんな個数、学生時代にも貰ったことはない。
俺が大量のチョコを抱えておどおどとしていると、同じ学年で担任を持っている、藤風先生が声をかけてきた。
「新石先生、モテモテね」
「いえいえ、僕が貰ってるわけではないですから」
俺よりも五年ほど先輩の彼女はいつも少しからかってくるのだ。
「それにしても、どうしてわざわざこんなことを……?」
「あー、君一年目だもんね。ほら、うちの高校はお菓子とか持ち込み禁止で、間違えて持ってきたら先生が放課後まで預かるでしょ? 昔、それを逆手に取ってわざとチョコを持ってきて、放課後に男子に渡すっていう裏技を編み出した子がいてね。それから、校則の抜け穴を突いてチョコを持ってくるっていうのが伝統になってるのよ」
「天才的発想だ……」
なんというか、最初に発明した子のバレンタインへの執念を感じる。
「ちなみにあの冷蔵庫は大量のチョコを保管するために購入されたの」
「校則を変えるという選択肢は無かったんですか??」
「あー。確かに」
「無かったんですね……」
あの冷蔵庫にそんな裏話があったとは。
「まあ、せっかく面白い伝統なんだし、これはこれでいいんじゃないかしら。それに……」
「それに?」
「女子高生の純度100%の恋愛を特等席で眺められるのって最高じゃない?」
「なっなるほど?」
分かるようなわからないような。
「これから告白するっていうドッキドキの瞬間の女の子に預かってたチョコを返すあの瞬間……教師になってよかったと心から思うわ」
「そんなやりがいの感じ方もあるんですね」
「『頑張ってね』って声をかけるとちょっと照れた顔で『はい』って返してくるのがもう、ちょー可愛くって……!! ねぇ? あーこりゃ恋する女の子は無敵ですわと毎年毎年感動するのよ……」
「すごい熱量だ」
藤風先生は我を忘れてこの高校のバレンタインの魅力を延々と語ってくれた。
「あっ。ごめんなさい、バレンタインになるといつもこうなっちゃうのよ。今日のために一年仕事してるみたいなものだから」
「逆にこれ以外にやりがい無いの、普通に教師の闇を感じますけどね」
「いや、そんなことはないわよ。通学路の見送りで一緒に帰ってるカップルを眺めたり、見回りでばったり告白の場面に出くわしたりとか色々あるわよ」
「藤風先生が恋愛厨なのはわかりました」
「え、それ以外にやりがいなんてあるの?」
「やっぱり闇なのかもしれないこの職業……」
俺が教職に就いたことに後悔を感じ始めていると、予鈴が鳴った。
「あら、ホームルームが始まっちゃうわね。あ、そうだ。放課後の見回り一緒に行く? 今日はきっと大漁よ」
「遠慮しておきます……」
藤風先生を見送りながら、告白のことを大漁と表現する先生はちょっと嫌だなと思った。
――放課後。
今日は顧問をしている部活が休みだったので、授業準備に黙々と取り組んでいた。
完全下校の時間を知らせるチャイムが鳴った。
「あれ、もうこんな時間か」
集中をしていたからか、思ったよりも時間が早く過ぎていた。
それにしても、どうしてみんなチョコを返してもらいに来なかったんだ……?
「あー、返してもらいに来なかったチョコは持って帰っちゃっていいわよ」
藤風先生が見回りから帰ってきて、冷蔵庫を開けていた。
「あらら、こんなに残ってるのね……」
「そうなんですよ。どうしたものかと思いまして」
「あ、一つ言い忘れてたんだけどね……最近は普通にチョコを隠し持って渡す生徒が多くなって、残念なことにこのバレンタインの伝統は消えつつあるのよ。今でもこの方法を使ってるのは相当に真面目な子か、先生に預けるという行為に『特別な意味』を持ってる子ぐらいなのよねー」
藤風先生は思い出したように呟いた。
「えっと、それはつまり……」
「だから言ったじゃない。モテモテねって」
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