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ミステリ短編

転生ボーナス

作者: 紅茶
掲載日:2025/12/30

 目を開けた瞬間、世界が変わっていた。


 空は異様なほど青く、雲一つない。

 

 乾いた風が頬を撫で、砂の匂いが鼻を刺す。足元を見下ろすと、地面は白くひび割れた岩盤で、円形に近い平らな台地になっていた。その縁の向こうは、はるか下まで切り立った崖だ。


「……異世界、だよな?」


 胸の奥から、抑えきれない高揚感が湧き上がる。

 テンプレだ。完全にテンプレの異世界転移。

 空中に浮かぶ半透明のウィンドウを、彼は見逃さなかった。


《ステータス》  名前:ユウマ

 レベル:1

 HP:120

 MP:80

 筋力:15

 敏捷:18

 知力:22

 運:35


《固有スキル:適応成長(未知環境で能力上昇)》


「うおおおおっ!」


 思わず拳を握りしめる。数字が並んでいるだけなのに、全能感が湧いてくる。運が高いのもいい。固有スキルもそれっぽい。


 これから剣を振るい、魔法を覚え、仲間を得て――そんな未来が一瞬で脳裏を埋め尽くした。


「さて、街はどっちだ?」


 彼はようやく周囲を見回した。

 だが、見えるのは果てしない砂漠と、同じような台地が点在するだけ。人影も道もない。だが、不安はなかった。


「まあ、最初はこんなもんだよな。サバイバルから始まる異世界ライフ!」


 笑いながら、彼は気づかなかった。


 この“お皿”のような地形が、偶然ではないことを。

 ――それは、この世界における“食卓”だった。



 ドラゴンは空を旋回しながら、下を見下ろしていた。

 今日も良い天気だ。風向きも問題ない。

 台地の上には、ちゃんと新しい獲物が置かれている。


「ありがたいことだ」

 

 数年前、彼は人間に殺された。

 

 あの世とこの世の狭間で、女神様から世界を救うように頼まれた。

 見返りとして、転生ボーナスとやらをくれるらしい。


 低く唸るような声で、ドラゴンは願った。

 食事を定期的に届けてくれ、と。


 知性ある獲物は、味がいい。

 恐怖と希望が混ざった魂は、特に。

 台地の中央で、獲物は空を見上げ、何かを叫んでいる。


 喜んでいるようだ。

 自分の運命を知らずに。

 ドラゴンは口の端から、だらりと涎を垂らした。

 ゆっくりと高度を下げる。

 太陽を背にした巨影が、円形の台地を覆い始めた。


 ――さて、今日の転生ボーナスの時間だ。

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