転生ボーナス
目を開けた瞬間、世界が変わっていた。
空は異様なほど青く、雲一つない。
乾いた風が頬を撫で、砂の匂いが鼻を刺す。足元を見下ろすと、地面は白くひび割れた岩盤で、円形に近い平らな台地になっていた。その縁の向こうは、はるか下まで切り立った崖だ。
「……異世界、だよな?」
胸の奥から、抑えきれない高揚感が湧き上がる。
テンプレだ。完全にテンプレの異世界転移。
空中に浮かぶ半透明のウィンドウを、彼は見逃さなかった。
《ステータス》 名前:ユウマ
レベル:1
HP:120
MP:80
筋力:15
敏捷:18
知力:22
運:35
《固有スキル:適応成長(未知環境で能力上昇)》
「うおおおおっ!」
思わず拳を握りしめる。数字が並んでいるだけなのに、全能感が湧いてくる。運が高いのもいい。固有スキルもそれっぽい。
これから剣を振るい、魔法を覚え、仲間を得て――そんな未来が一瞬で脳裏を埋め尽くした。
「さて、街はどっちだ?」
彼はようやく周囲を見回した。
だが、見えるのは果てしない砂漠と、同じような台地が点在するだけ。人影も道もない。だが、不安はなかった。
「まあ、最初はこんなもんだよな。サバイバルから始まる異世界ライフ!」
笑いながら、彼は気づかなかった。
この“お皿”のような地形が、偶然ではないことを。
――それは、この世界における“食卓”だった。
◆
ドラゴンは空を旋回しながら、下を見下ろしていた。
今日も良い天気だ。風向きも問題ない。
台地の上には、ちゃんと新しい獲物が置かれている。
「ありがたいことだ」
数年前、彼は人間に殺された。
あの世とこの世の狭間で、女神様から世界を救うように頼まれた。
見返りとして、転生ボーナスとやらをくれるらしい。
低く唸るような声で、ドラゴンは願った。
食事を定期的に届けてくれ、と。
知性ある獲物は、味がいい。
恐怖と希望が混ざった魂は、特に。
台地の中央で、獲物は空を見上げ、何かを叫んでいる。
喜んでいるようだ。
自分の運命を知らずに。
ドラゴンは口の端から、だらりと涎を垂らした。
ゆっくりと高度を下げる。
太陽を背にした巨影が、円形の台地を覆い始めた。
――さて、今日の転生ボーナスの時間だ。




