表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ORANGE  作者: 陽葵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/13

9




 葵ちゃんが、左手をひらひらと上げて、にこっと笑った。

 うん、やっぱり可愛い。あの仕草、ずるい。


 葵ちゃんは別の高校に通う、いわゆる“普通の女子高生”――かと思いきや、なんと、ギターが弾けちゃうんです!

 すごいでしょ?


 ヒマリはボカロ好きだから、楽器とかあまり詳しくないけど、それでもギターを弾けるってだけで尊敬しちゃう。


「こんにちは!」

 葵ちゃんの明るい声が、駅の喧騒に溶けていく。


「こんに……敬語でなんて言うの?」

 あ、出た。教育係のヒマリの出番です。


「“こんにちは”で合ってるよ」

「そっか。“今日こんにちは”だからオッケーなんだね」


 ――もう、ほんとに。しっかりしてよね。


 燈君は、どこまでも天然だ。

 話がよく飛ぶし、たまに宇宙まで行っちゃう。


 この前も、物理学を教えてもらってたら、いきなり相対性理論の話になって、「あれ、今なんの話してたっけ?」って……もう、記憶に新しいです。


 今日は、脱線しないでね?

 ちゃんと私が見張ってるからね?


 葵ちゃんは、ヒマリと同じくらいの身長で、すらっとしてる。

 音楽学校に通ってて、将来は歌手志望なんだって。

 たまに栄で弾き語りしてるらしい。

 ――かっこよすぎません?


 しかも、葵ちゃんが作った曲「君に夢中」は、何度聴いても胸がぎゅっとなる。

 本当に、心がこもってる。


 ……それにしても、名古屋駅って、いつも人が多い。

 行き交う人の波の中を、ヒマリと葵ちゃんと燈君の三人で並んで歩いていく。


 葵ちゃんは、首にヘッドホンをかけていて、それがまた似合う。

 音楽が、彼女の一部になってるみたい。


 そう思っていた矢先――

 葵ちゃんが、さりげなく燈君の手を握った。


 ……あの、それ、ヒマリの燈君なんですけど!?

 とは、さすがに言えない。


 二人が夢中で話す姿を見て、胸の奥がきゅっとなる。

 ヒマリは、少し悲しくなって、イヤホンを耳に差した。

 でも、ノイズキャンセリングはオフ。

 会話は、ちゃんと聞こえてくる。


「どこから来たの?」

「イギリスだよ」

「英語、喋れるの?」

「うん」


 ……燈君、そっけなっ。

 だけど、その無表情なとこが、またずるいんだよなぁ。


 ヒマリはわかってた。

 盗み聞きなんて、ダメなこと。

 でも、我慢できなくて――つい、口を挟んじゃった。


「え、えっと……ランチ、どうする?」


 一瞬、沈黙。空気が止まる。


「うどん!」


 その一言で、場の緊張がふっと解けた。


「きつねとたぬきって、関係あるの? 食べ物の神様?」


 ぷふっ。思わず吹き出しちゃう。

 燈君って、ほんと、天然。面白すぎる。


 ぴえん通り越して、ぱおんです。


「そんなバハマ〜」

 葵ちゃんが、笑いながらふざける。


 この、なんでもない日常。

 交わされる何気ない会話。

 こんな時間が――私は、好きだ。


 まるで、赤に白を少し混ぜたような、やわらかい色の空気。


 ふと見上げると、緑色の建物が目に入った。

 スターバックス。


「入ろっか」


 私たちは顔を見合わせて、微笑んだ。

 それだけで、今日が少しだけ特別に感じた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ