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ORANGE  作者: 陽葵


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8




 さっき、お茶を買ったんです。

 自販機の前で、小銭を入れて、ボタンを押して――カラン、と音がして出てきたのは、よく見る緑のお茶。

 ゴクゴク飲んでいると、隣であかり君がコーヒーを飲んでいました。


 ……正直、ちょっと羨ましい。

 でも、ヒマリは我慢します。


 すると、燈君がふいに口を開きました。


「知ってる?」


 え、なにが?


「これは“カフェ”なんだよ」


 ……はい?

 ペットボトルを指さして、「これはカフェなんだよ」って、どういうこと?


「なに言ってるの?」と訊き返すと、

 燈君は得意げに微笑んで、こう言いました。


「フランス語で、コーヒーは“カフェ”って言うんだ」


 ……もう、ムカつく。

 こういう時だけ、ちょっとドヤ顔しちゃって。

 でも、そういうところ――ずるい。嫌いになれない。


「じゃあ、喫茶店はなんて言うの?」


 私が挑むように訊ねると、燈君は少し顎に手を当てて考え込んだ。


「サロン・ド・テ……かな」


 ――え、フランス語もできるの?

 すごい。ほんと、すごい。


 ヒマリなんて、日本語しかまともに話せないのに。

 やっぱり帰国子女は格が違う。


 そんなことを考えている間に、電車が到着した。

 この時間は空いていたので、私たちは並んで座ることができた。


 窓の外の景色が、ゆっくりと後ろへ流れていく。

 行き先は――名古屋駅。


あおいちゃん、待たせてないかなぁ……」


 ちょっと心配。

 葵ちゃんは、私と同い年の高校生だけど、すごく大人びている。

 名前が似ているから、勝手に親近感を覚えちゃってる。


 たまに「きゃはっ」って笑うところが、また可愛いんだ。


 ふと横を見ると、燈君はスマホも触らずに、ただ静かに景色を眺めていた。


 ……本、読まないのかな?


 そんなことを考えていると、彼がぽつりとつぶやいた。


「綺麗だね」


 え? わ、私?


 ――違う、違うよね。

 窓の外の風景のこと。うん、絶対そう。


 あーもう、なに考えてるのヒマリ。

 あんぽんたん。


 でも、やっぱり気になる。

 燈君って、彼女いるのかな……?


 そんな雰囲気はないけど、いそうな気もする。

 なんか、モテそうだし。


 ちらっと彼のファッションをチェック。

 カーキのMA-1に、キャラメル色のパーカー。

 黒いジーンズがよく似合ってる。


 オレンジ色がさりげなく映えてて――あぁ、やっぱり燈君らしい。


 ヒマリはというと、慌てて家を出たせいで、メイクできなかった。

 だから、顔を隠すように黒いマスクをつけている。


 電車はゆるやかに揺れ、心地よいリズムを刻む。

 ぶらり、ぶらり。


 やがて電車が止まり、名古屋駅に到着した。


 改札を抜けると、向こう側で葵ちゃんが大きく手を振っていた。


「やっほー! 元気してた?」


 その笑顔に、ヒマリは思わず頬を緩めた。

 今日もきっと、楽しい一日になりそう。






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