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ORANGE  作者: 陽葵


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7




 ヒマリの日課といえば――ダラダラとスマホを眺めること。

 だけど、あかり君は違った。


 彼は床に胡座をかいて、静かに目を閉じている。

 両の手は人さし指と親指で輪っかを作り、それをそっと太ももの上に乗せていた。


 ……え、何してるの?


「……」


 返事は、ない。

 どうしよう。もしかして、怒らせちゃった?


 不安になって周りを見渡すと、机の上に一枚のメモが置いてあった。


> 『精神統一をしているよ。

> 真似してみてね。

> ――ヒマリへ』


 ……かわいい。

 しかも、字が綺麗すぎる。さすが燈君。


 よし、やってみよう――!


 そう思ったヒマリは、彼の真似をして目を閉じた。

 けれど、問題が一つ。女の子なので、胡座はちょっと恥ずかしい。


 だから、ヒマリは正座で挑戦することにした。


 一般的にこういうのは「瞑想」や「マインドフルネス」と呼ばれるらしい。

 前頭葉の働きを整えて、集中力を高めたり、ストレス耐性を上げたりする効果があるそうだ。


 ――って、これは燈君が言ってた。

 うん、やっぱり頭いいよね。帰国子女ってすごい。羨ましいなぁ。


 タイマーの音が「ピピッ」と鳴る頃には、ヒマリの心は不思議とスッキリしていた。

 まるで仮眠をとったあとのような、ふわっとした心地よさに包まれる。


 ……これ、めっちゃ気持ちいい。


 ぽわんとしたまま、二人は階下へ。

 そこではお母さんが、おやつを用意して待っていてくれた。


 ココアのビスケットに、チョコレート。

 甘い香りが鼻をくすぐる。


「いただきます!」


 幸せな時間だった。


 ――でも、あれ? そろそろ時間じゃない?


 そう思い出して、ヒマリと燈君は急いで最寄り駅へ向かう。

 あおいちゃんが待っているはずだ。


 ホームで電車を待ちながら、二人は他愛ない会話をしていた。

 英語を教えてもらったり、日本語を教えたり――ちょっとした交換授業みたい。


「今日の単語は、“スタービング”!」


 燈君が得意げに言う。

 なるほど。お腹が空いたときに使う言葉らしい。


 でも……スターって「星」だよね?

 どういうことなんだろ。うーん、英語って不思議。


 そんなことを考えていると、燈君が新しく覚えた日本語を披露してきた。


「音を拝借します」


「……ん? お手じゃない?」


 思わず吹き出してしまった。

 ああ、もう、燈君ってば面白い。ぴえん。


 その瞬間、風が頬を撫で、ホームに電車が滑り込んできた。

 ふたりは顔を見合わせて笑い――乗り込んだ。


 今日も、穏やかで、少し不思議な一日が始まる。






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