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ORANGE  作者: 陽葵


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5/12

5




 寝ようと思ったのに、どうにも寝つけなかった。

 胸の奥が、そわそわして落ち着かない。


 気づいたら、私はそっと廊下に出ていた。

 燈くんの部屋の前に立ち、ノックもせず、少しだけドアを開ける。


 ――灯りが、ついてる。

 やっぱり起きてた。


「……何読んでるの?」


「マスカレード・ホテル。面白いよ」


 そう言ってページをめくる燈くん。

 横顔が、真剣で。

 思わず見惚れてしまった。


 ……マスカレード?

 それって……魚のカレーじゃ、ないんだよね。


 わ、私、ずっとそう思ってたんだけど……。

 恥ずかしい。ぴえん。


「燈くんって、本が好きなんだね」


「ふふ、本はね。体にとってのご飯が“カレー”なら、脳にとってのご飯なんだ」


 そんなことを言って笑う燈くん。

 いつもより少し静かな声で。


 彼の眼鏡越しの瞳が、淡い灯りにきらめいている。

 ――あれ、眼鏡なんてかけてたっけ?

 新鮮で、なんだかドキッとした。


「……似合ってるね。すごく」


「そう?」

 彼は照れくさそうに笑って、また本に目を戻した。


 ……ああ、こういうの、いいな。

 私も眼鏡、買おうかな。


 そんなことをぼんやり考えていると、燈くんが口を開いた。


「あのさ、明日のことなんだけど……」


「うん?」


「……二人じゃ、だめかな?」


 え。

 ワット……ドゥーユーミーン?


 二人って……それって、もしかして、脈アリ……?

 いや、まさか……結婚フラグ!?


 頭の中で、勝手にブーケが舞いはじめた。

 神様、ヒマリはもう充分幸せです。


「でも、葵ちゃんも会いたがってるし……」

 必死に現実へ引き戻す。


 燈くんは少しだけ考えて、ふっと視線を落とした。

「……話したいことがあるんだ」


 その声が、いつもより少しだけ寂しそうに聞こえた。


 燈くんが言うには、イギリスやフランス、イタリアを転々としていた頃、

 どうしても“馴染めない”ことが多かったらしい。


 英語は話せるのに、伝わらない。

 会話はできても、心までは届かない。


「いじめとかじゃないんだ。でも……壁、みたいなものがあった」


 その言葉に、私は胸がきゅっとなった。

 燈くんの“笑顔の奥”を、少しだけ覗いた気がした。


「日本語だけなんだ。ちゃんと、気持ちを伝えられるのは」


 真っ直ぐなその言葉に、思わず頷いていた。


「でもさ」

 彼が少しだけ笑う。

「“女の子と二人で遊ぶ”のは、英国紳士のやることじゃない、って言われたことがあってね」


 ……なんですと?

 燈くん、いつからイギリス人になったの!?


 頭の中で紅茶とスコーンが飛び交う。

 フィッシュ&チップスが食べたくなった私は、つい口に出していた。


「今度、作って」


「わかった」

 彼はあくび混じりに微笑んで、頷いた。


 ――ありがたや、燈くん。


 そのあと、いつのまにか眠ってしまったらしい。

 目を覚ますと、夜中の三時。


 自分の部屋に戻ろうとしたとき、

 燈くんの寝息が聞こえた。


 静かな部屋の中で、あたたかい音。


 ――今日は、このままここで寝よう。


 そう決めて、そっと目を閉じた。






みなさん、こんばんは


今日の更新はここまでです


いい夢が見れますように♪

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